第3話 出会

ホテルは徒歩5分で着く場所にあり、僕らは歩いて向かった。ホテルに着くなり、1階の会場へと廊下を歩いた。席は1ヶ月前に発表されている各部署ごとのになっていた。

 

「そういえば、椎名ってどこの部署なんだ?」

 

「えーと、投資銀行部門」

 

「まじか!同じだ俺と!」

 

「でも若手銀行員は色んな部署回るって言うよね」



「確かになー。でもIBDスタートなんてエリートコースじゃないか?」


「そんな与太話してないでもう少し早く歩いたらどう?」

 

これが彼女と初めて出会った瞬間だった。そして同時に、

心臓が溶けてしまうくらい熱くなり始めた。未だ僕がかかったことのない病にかかってしまったのだと思った。


「初対面の人にはまず名前を名乗ってから喋ろうか」

 どの口が言ってるんだと思ったが口には出さなかった。

「私は、田中蘭子。あなたたちは?」


「俺は柳谷幸之助。こっちはー、、」

 柳谷は僕が病にかかったのがわかったような目で僕を見てきた。

「椎名大志です。よろしくお願いします。」


「よろしくね」

 

 彼女はニコッと笑い僕に握手を求めた。営業スマイルなんだろうが、彼女の笑った顔は、まだ幼い女の子の無邪気な笑顔に見えた。

 

 「田中さんはどこの部署?」


「IBD。でも同じチームである前にライバルなのも忘れないで」

「けれど同じ部署として一緒に頑張りましょう。じゃあまた後で」

 

やっぱり彼女は、少女のように笑った。


「顔は可愛いんだけどなー。やっぱ気強そうな女が多いのかな」


「椎名はアリか?田中さん?」

 この笑顔は、少年のようではなく人の弱みを見つけた銀行員の嫌な顔だ。


「ニヤニヤするな。そんなんじゃない」


「ははっ、椎名もそんな顔できんだな」


僕は外に発している感情に比べ、心の中は穏やかで満ちていた。

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この糸が解けないうちに 坂道 @user_8452

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