第41話 蝙蝠の巣立ち
「Oh、オ姉サン、ワタシノ動画ナンテ撮ッテドウスルノ? 配信デ稼グナラ報酬山分ケヨ?」
「――稼げると思ってるの? ほら、さっさとして! 他のお客さんいないうちに終わらせるから!」
「おっ!? 『真夜中姫ちゃん』じゃないか! どうしたどうした? ムハンマドの動画なんか撮って? 配信サイトに上げたら即、削除申請来るぞ?」
夜の11時、私は例のコンビニに来ていた。レジの前でムハンマドくんと話をしていたら奥から店長さんまで顔を出した。
「店長さん、その『真夜中姫』やめてもらえません? もうしばらく夜中には来てないって。まぁ……、今日は夜中ですけど」
ちょうどよかった。店長さんもいたら動画を撮ろうと思っていたところだ。
「そんなら――、聞いてくれよ、姫ちゃん? うちのアルバイトで新しく入った
「小鳥遊サン、彼氏イルッテ。ソレニ
「ムハンマド、お前――、いっつも誰かのせいにして自分の言いたいこと言ってないか?」
「ソンナコトナイヨ。私、聞イタコトシカ言ウテナイヨ」
なんかこの2人はいつも勝手に話し出して勝手に盛り上がっている。
この店は家から一番近いコンビニだ。夜中出歩かなくなっても利用することは多い。ムハンマドくんは以前と変わらず、そしていつしか私はここの店長さんとも話すようになっていた。
実年齢35歳にしては若く見える店長さん。見た目もそれほど悪くはない。けど、年齢以上に漂うオジサン臭いというかなんというか――、絶妙に女子受けしなさそうな要素を備えている残念な人だ。
「ソイエバ、オ姉サン! 『サワジリケツオ』、R-1グランプリ出ルラシイヨ?」
「あぁ、そうなの? 別に私、あれのファンじゃないんだけど……」
私は素っ気なくそう言うと、動画撮影をしていたスマホをしまった。
「あれ、姫ちゃん? なんか動画撮ってたんじゃないの?」
「はい。今のやりとりで十分なので」
私の表情は綻んでいて、きっと傍から見ても自然な微笑みに見えたと思う。レジから数歩離れると、2人に向かって頭を下げた。
「あのっ! 多分、しばらく来れなくなると思うんですけど、ありがとうございました! なに言ってるかわからないかもですけど――、私にとってここはホントに憩いの場所でした!」
ムハンマドくんと店長さんはきょとんとして互いの顔を見つめ、そのあと、同じタイミングで私の方を向いた。
「ああ、なんだかわからんけど――、またのご来店お待ちしております!」
「オ姉サン、マタ来テネ! 待ッテルヨ!」
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