第42話 蝙蝠と翡翠(カワセミ)

 ミズキさんが近くから去ってしまった。あれから3年、高校を無事に卒業した私は福岡で一人暮らしをすることになった。


 それはもちろん大学進学で、ミズキさんと同じ学校に入ったからだ。


 動機は不純かもしれないけど、結局私は「ミズキさんを追いかける」を目標にして復学し、勉強を続けてきたのだ。

 親や先生にはちゃんとした理由を話していないけど――、動機なんてどうでもいいと思っている。


 仮に私がミズキさんと会いたい一心で勉強し、世の中をひっくり返すようなすごい法則を発見したとしよう。

 すると、私はきっと世間に向かってものすごく高尚で立派な動機を話すに違いない。でも、実際はそうじゃないんだ。

 偉業を成し遂げた人だって、実のところその動機は大したものじゃないのかもしれない(思い込みです)。



 ただ、結果として私は高校を卒業し、なんとかギリギリでミズキさんと同じ大学に入学できるくらいの学力を身に付けたのだ。

 ミズキさんに絡む迷惑客を追い払った(?)あの夜、彼女は私が「救ってくれた」と言った。だったら、ミズキさんは引き籠り学生の私の人生そのものを救い出してくれたんだ。やっぱり天使かな?




 今、私は慣れないスーツに身を包み、大学の入学式を終えたところだ。人の密集したホールから飛び出したせいか、4月の風が薄ら寒く感じる。

 服も靴も下ろしたばかりで、まるで油の回っていない玩具のようだ。手足の動きが全部ぎこちなくなってしまう。


 スマホがブルっと小さく震えた。SHINEのメッセージが届いた知らせだ。画面には、前と変わらず「ミラミス」の初代主人公の顔が待ち受けている。


 メッセージの主は当然、ミズキさん。私は自然とにやけてくる顔を意識的に引き締めながらをタッチした。


 入学式が始まる前に、それが終わる時間を知らせておいた。きっともう近くに来てくれているはずだ。

 届いていたのは、メッセージではなく、変な白黒のウサギが手を挙げているスタンプだった。そういえば――、一番最初にミズキさんからもらったメッセージもたしかこれだった気がする。


 雑に手描きされたようなそのウサギを見つめ、ほんの一時もの思いに耽っていると、背中から声をかけられた。


 それは、とても心地いい――、どこか訛りのある聞き慣れた声だった。




―― 完? ――

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