第21話 支持層が広いから「国民的」

「それ! 『ミラミス』やんね! うちも見てたとよ!」



 翌週の土曜日、私は先日のカフェでミズキさんと会っていた。何度も奢ってもらうのはいくら学生であっても申し訳なく、今日は「割り勘」にしてもらった。


 ミズキさんは私がポシェットにぶら下げているキーホルダーを目に留めると、やや興奮気味に話を始めた。


 「ミラミス」は、私の好きなアニメ「ミラクル探偵プリティー☆ミステリー」の略称というか、俗称というか、そういうのだ。



「あっ……、えと、ミズキさんもアニメとか見るんですか?」


「うん、見る見る! 全然見とおよ! 『ミラミス』は今でもサブスクで休みの日に見とるけんね!」


 私はそれを聞いてとても嬉しくて、同時に心から安堵していた。共通の話題が見つかった! 私は「ミラミス」のことならなんでも話せる! それくらいのファンだ!


 そして話題が見つかったなら――、学校の話題を遠ざけられる……。



 ミズキさんはわりと本気の「ミラミス」ファンのようだ。あんまりディープな話をすると退かれそうなので、やんわりと表層を撫でるように話をしていた私だが、彼女の返しの方がむしろディープなのだ。


 自然と話のレイヤーが引き上がっていき、どこかの段階で私は悟る。この人は「ホンモノ」だと……。



「ああ、そうばい! 来週からミラミスの展示が始まるっちゃけん、一緒に行くっちゃどう?」


 そう言ってミズキさんは、スマホを少し触った後に画面をこちらへ向けてきた。そこに映っていたのは、アニメ「ミラクル探偵プリティー☆ミステリー」の展示イベントの告知。


 もちろん私はそれを知っていた。けど、そこに行こうとは思っていなかった。


 「ミラミス」は今や、国民的なアニメ。小学生の女の子はもちろん、シリーズの放送が長いため、それを見て育った大人の女性から、一部マニアックな男性の皆様含めて大人気なのだ。


 それの展示イベントとなれば、それはもう人が集まるのなんの。一部、イベント限定のグッズもあったりと魅力十分なのだが、人の群れに飛び込むのが怖かった。


 どうだろう……。ひとりなら絶対無理だ。人の圧に押されて消え失せる自信がある。けど、ミズキさんとなら? ミズキさんとならいける、――っていうか、一緒に行ってくれるの?


「あっ――、来週の予定は空いてますけど……」


 そもそも私に予定のある日なんて存在しない。年中無休の24時間営業をそっくりそのままひっくり返した状態だ。

 なのに「来週の予定は――」なんて言い方をしてしまうのは、小さくてつまらないプライドがどこかにあるからなんだ。



「そいぎん決まりっちゃん。コウちゃん、うちらもう――、『友達』やね?」

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