第22話 後ろめたさより「好き」を優先す
「友達」――、真正面から人に言われたのは初めてかもしれなかった。とても甘美な響きで、それでいてくすぐったくて、尊い言葉。
「『あなたと友達になりたい』ってきちん言って伝えんと、知らん間に終わって消えてしもう関係て案外多いとよ? うちは仕事であちこち行ったけん、学んだっちゃん」
「あっ……、はい。ミズキさんはなんだかその、お姉さんみたいで――、『友達』って言ってもらえてとても嬉しいです」
今の私に友達らしい友達なんていない。中学生あたりから人との距離感がわからなくなって、それを引きずったまま高校生になったしまったからだ。
だから、ミズキさんがこう口に出して「友達」と言ってくれたことが本当に嬉しかった。
高校休学中の私が、趣味を爆発させた展示イベントに出掛けるのは少し気が引けるけど、今はミズキさんとの予定を優先する気持ちが強かった。
それから私たちは、来週の予定を簡単に決め、「ミラミス」談話に花を咲かせ、時折ミズキさんの話すコンビニの珍客エピソードで笑いあった。
そうしてこれまで以上に心が暖かくなるのを感じながら私は彼女と別れた。
「先の予定が決まっている」――、こんな当たり前のことがこれほど心を満たしてくれるとは思っていなかった。
次の予定は来週だというのに、すでに頭はその日のことをシミュレートし始めていた。気持ちが高揚し、帰りの足取りがとても軽い。まるで頭やら肩やらに風船でもくっつけているかのようだ。そのまま空まで連れて行ってくれそうな――、そんな気持ちにさせられていた。
◇◇◇
3日後の深夜、ミズキさんが「友達」と言ってくれてからSHINEでのやりとりは少しずつだけど、遠慮がなくなっていった。
そして、約束して会えるとわかってから深夜に出歩くこともなくなっていた。
元々、決して褒められた習慣ではなかった。ムハンマドくんが寂しがっている(?)かもしれないけど、万が一にも変質者と遭遇するリスクなどを考えれば控えるべきなのだ。
ところがこの日は、自室で使っているエアコンのリモコンが動かなくなってしまった。どうやら電池切れのようだが、単4電池のストックは手元にない。
『――今日はミズキさんの日か……』
私はスマホでSHINEを開き、ミズキさんにメッセージを送ろうとした――、ところで手、というか指を止めた。
ひょっとしたらお休みの可能性もある。そうなると、深夜にスマホを鳴らし迷惑をかけてしまう。そう思ってSHINEの画面を閉じた。すると、「ミラミス」の初代主人公の顔が画面に表示された。
それを見て勝手に顔がにやけてくる。ミズキさんがいたらちょっとお話していこう! もし、お休みだったら――、どうせムハンマドくんだろうから適当に声をかけて帰ろう。
私はそんなことを考えながら、せいぜい数日ぶりくらいのはずなのにどこか懐かしみを感じる深夜の街へと出かけていった。
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