第5話 夜の灯りに引き寄せられて

 中学の時、実は気になる人がいた。


 3年で初めて同じ組になった子で、いつもクラスの中心にいる女の子だった。元気で愛想がよく、勉強もスポーツもできて――、教室の隅っこにいる私にも時々声をかけてくれた。


 私は同年代の男子を好きになれなかった。みんな揃ってどこか子どもっぽく見えて、なんの魅力も感じなかった(向こうから見た私もそうだったろうけど……)。


 クラスの女子が、同じく同性の先輩だったり、同級生に憧れを抱いていたのは知っていた。だから、私も別に同性を好きになることをなんとも思っていなかった。


 でも、ただ「いいな」と思うだけ。それだけで終わった。




 いつからだろう? 家に引き籠り、昼夜逆転の生活が始まっていった。明るい時間に外へ出るのはなにか後ろめたさがあった。そして夕方になると、知り合いと顔を合わせる可能性が高くなる。それは絶対に避けたかった。


 あれこれ考えているうちに、外へ出るのは決まって夜――、それも深夜になっていった。生活の基軸もそこへ合わさるようになって、見事な「昼夜逆転」が完成したわけだ。


 お母さんもまさか、私が頻繁に夜中に出歩ているとは知らない。何度か外へ出る前、気付かれたこともあったけど、「電球が切れた」とか適当な理由を言って誤魔化した。




 深夜のコンビニで、「かわせさん」を気にするようになったのはいつの頃だろう?


 ある日、レジを打ってもらっている時に何気なく顔を見て「綺麗な人だな」と思った。中学の時、憧れていた同級生の子をそのまま大人っぽくした雰囲気だ。


 近所のコンビニに何度か足を運んで、彼女は決まって深夜に働いていて、週に4回くらい、土日と水曜日はいないことが多いとわかった。


 最初はコンビニに行くと無意識に彼女を探し――、気付いたら彼女に会うのが目的でコンビニへ通うようになっていった。


 まともに話なんてしたことはない。なんならいつもしている灰色のマスクの下がどんな顔なのかすら知らない。

 ちょっと離れたところから眺めているだけ。運がよければ言葉の一言二言くらいは交わせる。商品を買う瞬間はレジカウンターを挟んでもっとも近付ける瞬間だ。



 高校を休学してからなんというか――、自分が内側からどんどん干からびていくのを感じていた。いろんなものに興味を失って、勉強どころか遊びですら切り捨てて無気力になっていく。


 渇き切ってもうなんにもなくなってしまうんじゃないかとすら思っていた。そんな私にほんの一滴だけ――、かすかな潤いをもたらしてくれた人。それが私にとっての「かわせさん」だ。

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