第7話 鋼鉄の仮面
「痛っ!」
新しいアイシャドウを瞼に塗った瞬間、真奈の肌が焼けるような痛みを感じた。鏡を見ると、そこには見たことのない自分が映っていた。
メタリックな輝きを放つアイシャドウ。血のように赤いリップ。そして、まるで鋼鉄のように引き締まった輪郭。それは、リングの女王のような荒々しい美しさだった。
「なんて...力だ」
両腕に力が漲る。筋肉が盛り上がり、体が変形していく。女神の時の優美さはない。代わりに、破壊的な力が全身を満たしていた。
「これが、新しい私」
声も低く、轟くような響きに変わっていた。壁に触れると、指先が壁を貫通する。この力は、あまりにも危険すぎる。
「使い方には気をつけて」
暗闇から、例の店員の声。「でも、もう遅いわよね」
真奈は分かっていた。体の中で、制御できない暴力性が目覚めつつあることを。それは、女神の時とは違う種類の恐怖だった。
「私、また人を傷つけるの?」
「それはあなた次第。でも、その化粧品には意思があるわ」
真奈の体が震える。化粧品に意思がある?まるで、何かに取り憑かれたような感覚。
鏡を見ると、そこには巨大な戦士の影が映っていた。もはや、人間の形をしていない。
「さあ、リングの上で踊りましょう」
店員の声が消えると同時に、真奈の中で何かが弾ける。
制御不能な力が、解き放たれようとしていた。
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