第6話 消えゆく神



社内の様子がおかしいと、最初に気づいたのは取引先の人間だった。


「あの、御社の真奈様は...」


真奈の姿が、会議の最中に突然、透明になったのだ。一瞬の出来事で、誰もそれが現実だったのか確信が持てない。だが、恐怖だけは確かに残った。


その夜、真奈は化粧室で自分の姿を確認していた。鏡に映る顔は、まるでガラス細工のように透き通っている。その向こう側には、巨大な黄金の存在が見える。


「もう、限界のようね」


暗闇から、店員の声が響く。今度は姿を現した。その表情は、どこか悲しげだった。


「私、消えるの?」


「ええ、でもそれは形を変えるという意味よ」


店員の手が、真奈の頬に触れる。その瞬間、激しい痛みが全身を走った。


「あ...!」


鏡を見ると、顔が変形し始めていた。完璧だった造形が、別の何かに変わっていく。より野性的で、より強力な何かへ。


「次は、もっと力強い姿になれるわ」


真奈は理解した。これは終わりではなく、変容の始まりなのだと。


「プロレスラーのメイクを試してみない?」


店員が差し出したのは、新しいパレット。そこには、鋼鉄のような輝きを放つアイシャドウが入っていた。


「これで、物理的な力を手に入れられる。でも...」


言葉の続きを待つまでもなく、真奈は分かっていた。それもまた、大きな代償を伴うということを。


「構わない。私はもう、人間には戻れないから」


その言葉と共に、真奈の体は完全に透明になった。そして次の瞬間、強烈な光が部屋を満たす。


変容が始まったのだ。


女神から戦士へ。美から力へ。


真奈の笑い声が、深い闇の中に消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る