第6話 配信と現実とのギャップ
零士さんが浴室から戻ってきてリビングに入ると、俺はソファに座り込んだままで、少しだけ思索にふけっていた。スマホをポケットにしまいながら、あの配信のことがどうしても頭から離れなかった。普段の冷静で頼れる零士さんと、配信で見せたあの楽しげな姿。あれは一体どっちが彼の本当の姿なんだろう? と、迷いながらも考えていた。
「お待たせ」と、零士さんがリビングに戻り、軽く髪を濡らしたままでソファに座った。
「うん……」と俺は答えたが、心の中ではまだあの配信のことが気になっていた。あんなに元気で楽しげな彼を、今の冷静で落ち着いた零士さんの姿とどう結びつけるべきなのか、よくわからなかった。
「どうした? 元気ないみたいだな」と、零士さんが心配そうに俺を見た。
「いや、ちょっと疲れが残ってて」と俺は言ったが、どうしても無理に笑うことができなかった。
「無理しなくていいから、休んでてくれ」と、零士さんは優しく言った。いつもなら彼の声に安心するところだが、今日は少し違った。自分が感じている違和感に、どうしても目を背けられない。
その後、二人で少しテレビを見ていた。リラックスした時間の中で、ふと零士さんが口を開いた。
「もしかして、ばれちゃった?」
「えっと、あの……」と、俺は少し迷いながら、思い切って口を開いた。
「零士さん、もしかして配信してるんですか?」
その質問を口にした瞬間、零士さんは少し驚いた表情を浮かべた。
「やっぱり気づいてたのか?」
零士さんは驚きながらも、どこか冷静な目をしていた。少しでも隠そうとした気持ちは、もうなくなったのだろうか。
「いや、さっき聞こえたんです……零士さんの声。すごく明るかったから、配信って分かりました」と、俺は少し恥ずかしくなりながらも、そのことを正直に伝えた。
「あと、YouTubeで検索しちゃって」
「なるほど、陽介にばれちゃったか」と零士さんは、しばらく黙っていたが、やがて静かに笑った。笑い方は少しおどけたような感じで、照れている様子も見せていた。
「でも、別に隠してるわけじゃないよ。配信は、俺の一面だからね」と零士さんは、肩をすくめて、気軽に言った。その言葉を聞いて、俺は少しだけ心の中で納得したような気がした。彼が配信で見せる明るく元気な姿は、確かに彼の一面に過ぎないのだろう。でも、そうだとしても……何かが引っかかる。
「でも、配信をしているときの零士さん、全然違う感じでした」と、俺は正直に言った。思わず言葉にしてしまったその一言は、少しの勇気を振り絞った結果だった。
零士さんはその言葉を聞いて、少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに微笑んだ。
「それが俺の仕事だからね」と、彼は軽く肩をすくめて答えた。
「でも、陽介に見せるのはまた違う自分だと思ってる。配信では頑張って明るくしてるから、これが素だよ」
「それに、今もまだ本当の俺は見せれてないけどな」と、彼はぽつりと続けた。その言葉に、俺は思わず耳を澄ましたが、聞き取れなかった。
「え、なんて言いました?」
小声でつぶやいたそのセリフを、俺はぎりぎり聞き取れなかった。
「いや、なんでもない」と、零士さんはすぐに笑いながら誤魔化すように言った。
「でも、なんだか不思議だな……」と俺は思わず呟いた。
「あんなに元気だったのに、実際は冷静で、こうして優しくしてくれる」
零士さんは少し考え込んだ後、フッと軽い笑顔を見せた。
「それが俺なんだよ」
目を合わせたその瞬間、俺の胸の中にふわっとした感覚が広がった。俺の前では素でいてくれているのだと思うと、少し嬉しかった。
その後、しばらく黙って二人で過ごした。零士さんの配信者としての顔と、現実の彼。そのギャップに戸惑いながらも、少しずつその違いを受け入れられるようになった気がした。
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