第4話 無理するな
あれから数日が経ち、体調は少しずつ回復してきたものの、また無理をしてしまった。いつものように仕事を優先して、体がだるく重いのに、つい無理して働いていた。そうしているうちに、また限界が来てしまった。
その日も、体が言うことを聞かず、休み休み仕事をしていたけれど、とうとう倒れてしまった。
目を覚ますと、冷たい床の上に横たわっていた。体は鉛のように重く、目の前がぼやけていた。
「陽介、しっかりしろよ……!」
悠の声が耳に届く。仕事場からの連絡で迎えに来てくれていたのだ。必死に目を開けようとしたけれど、体が動かない。やっと顔を上げると、悠が心配そうに見下ろしていた。
「また倒れたのか……?」
悠の声には、少し怒気が混じっていたけれど、その表情は心配でいっぱいだった。
「ごめん……」と、俺はかすれた声で謝った。
「お前、ほんと無茶しすぎだろ」
悠は、俺を支えるように肩を抱き、ゆっくりと立たせてくれた。その手の温かさに、少しだけホッとした。
その時、ポケットから携帯が震えた。画面を見ると、見覚えのある名前ーー零士さんからの電話だった。
「……零士さん?」と、思わず口に出してしまったが、悠はすぐに携帯を手に取った。
「もしもし?」
悠の声には少し警戒心が混じっていた。
「お前、陽介か?」と、電話のスピーカーごしに冷静な男性の声が響く。
「いや、陽介は倒れてて、今寝かせてる」と、悠は少し躊躇いながら答えた。
「誰だ?」
少しの沈黙の後、零士さんの声が続いた。
「そうか、陽介が倒れたのか」
零士さんの声には、冷静さの中にも心配が滲んでいた。
「最近、無理してるんじゃないか?」
悠が少し驚いた顔をした。
「ああ、無理してる。だって……無理してでも稼がなきゃって。親もいないし、陽介が一番上だから、家族を支えなきゃって必死になってるんだ」
電話の向こうで零士さんはしばらく黙っていた。その後、静かに言った。
「陽介が倒れるのは見たくないな……。それに、無理してるなら、少しは頼ってほしい」
悠は驚いた顔をしながらも、少し不安そうに言った。
「陽介が倒れると、俺たちも辛いんだ。でも、注意しても、無理を辞めてくれないんだよ」
少しの沈黙の後、零士さんの声がやわらかく続けられた。
「そうか……。一つだけ確認したい。ちゃんと食事は取れてるのか?」
その言葉に、俺は一瞬、答えられなかった。実は、ほとんど食事を摂らずに、いつも妹たちに譲っていた。
「……あんまり、食べてない」と、俺はほんの少しだけ声を低くした。
「お前、ちゃんと食べろよ」
零士さんの声には、少しだけ怒りが感じられた。
「でも、妹たちは小さいから、いっぱい食べてほしくて……」
「そうか。なら、俺の家に来い。ご飯、ちゃんと食べさせてやる。弟くんかな? 少しだけ、お兄ちゃんを貸してくれ」と、零士さんは真剣な口調で言った。
「わかりました。お願いします」
零士さんの言葉に俺は考え込んでいたが、悠がすぐに答えた。俺は悠にそれだけ心配をかけていたんだと申し訳なく感じた。
「じゃあ、迎えに行くから待ってろ」
そして、俺が零士さんの家に到着した頃には、零士さんが手早く料理を用意してくれた。食事の匂いが、何だか懐かしく、心を落ち着けてくれた。
「食べろ」
ぶっきらぼうにそう言って、零士さんは料理を差し出した。でも、その目には、俺を気遣う気持ちがしっかりと込められていた。
食べながら、俺はふと思った。今まで、誰かにこんな風に気にかけてもらうことなんて、ほとんどなかった。だけど、零士さんは違った。頼ってもいいんだという気持ちが、心のどこかに少しずつ湧いてきた。
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