第45話 舞白
「千鶴のお父さんって、千鶴に似てるね」
「……はぁーーーっ? ふざけないでよ、似てないしっ!!」
「俺だって、こんなじゃじゃ馬娘みたいに怒らないぞ?」
舞白の口からポロっと出てきた言葉に対して、私と親父は強めに言い返した。結構強く怒ったつもりだったのだけれども、それでも舞白はニコニコと笑っていた。
「舞白、なんで笑ってるのかわかんないけど、ぜんっぜん褒め言葉になってないからねっ! こんな親父なんかに似たら、損しかしないでしょ! 貧乏クジしか引いたことない親父なんだよっ!」
「あんだと? 今のお前が高校行けるのも誰のおかげだと思ってるんだ?! あぁん! 貧乏って言ったのは取り消せ!」
「あぁん? やんのかコラ? 誰がアンタの面倒見てきたと思ってんだ?」
私と親父が言い合いすると、舞白が笑う。
「やっぱり二人とも似てるよ。はっはっは!」
舞白は、なにが楽しいのか、無邪気に笑い続けていた。
とりあえず私は、久しぶりに会った親父にムカついていたから、言いたいだけ文句を言ってやる。
せっかく来てやったっていうのに、ヘラヘラしてる態度が気に入らないし。せっかく掴みかけた幸せだったのに、それを私の手の中から叩き落とすような野郎。私を不幸にしかしない野郎だよ!
「足だけじゃなくて、手も折ってやるよ!!」
「おうおう!! やってみろ!! そしたら、綺麗な看護師さんにアーンしてもらえるしなっ!!」
「ああ言えばこう言う。本当になんなんだよ、この親父は。腹立つーーーっ!」
「……私、やっぱり千鶴のこと好きかも」
ぼそっと呟く声が聞こえた気がしたけれども、それは二の次として。
親父にありったけの怒りをぶちまけた。最近ずっと勉強していた腹いせも兼ねていたかもしれないけれども。我慢していた物が急に溢れ出てきた感じがした。
少しの間、親父と文句を言い合っていたら、部屋の人が看護師さんを呼んだらしく、私と舞白は病室を追い出されてしまった。
流石に騒ぎ過ぎたのかもしれない。
久しぶりに白熱してしまった……。
病院を出ると、昼間の明るい太陽が私たちを出迎えてくれた。初夏を感じさせる暑い日差し。毎日部屋にこもって勉強に明け暮れていたからか、なんだか久しぶりに外に出た気がした。
途方に暮れて、私たちはとりあえず帰りのバス停を目指して歩いた。
「舞白、いまから急いで学校に戻ったところで、他の教科のテストに間に合わないよね……」
「せっかくいっぱい勉強したっていうのにね」
舞白の言う通りだ。あんなに勉強したっていうのに、結局なんにも意味なかったみたいだ。全身から力が抜ける感じがした。
「それもあるし。舞白のお父さんに宣言したっていうのにさ。もう私たち、終わりじゃん……」
「まぁいいよ。それよりさ、今日はこのまま学校サボっちゃおうよ! 今らか戻ってもみんな帰宅し終わってると思うしさっ!」
舞白の方を見ると、私と違ってそれほど落胆した様子が見えなかった。むしろなんだか、嬉しそうにすら見えた。
「……まぁ、いっか。考えても、なにが変わるってわけでもないし。終わったことは、クヨクヨ気にしてても意味ないか! はぁーー、今日はパーーーーッと遊ぶかーーっ!!」
「うんっ! そうだよ! やっぱり千鶴はそうでなくっちゃ!」
楽しそうな舞白を久しぶりに見た気がするな。
そもそも、久しぶりに二人きりになった気もするし。
最近はいつも彩芽の部屋に入り浸ったり、リコリス寮へ入り浸ったりして、勉強ばっかりしていたからな。
思い出すと、また悔しい気持ちが湧いてきちゃうな……
「はぁーーーーっ!! もう、どうにでもなれだねっ!! 忘れるために、遊ぼう遊ぼうっ!! まずは、カラオケがいいかっ!? 舞白は、どこ行きたい?」
頭を思いっきり振って舞白の方を見ると、私よりも吹っ切れてるような、明るい顔がそこにあった。
「千鶴ってさ、私のこと好き?」
「はぁ? 当たり前じゃん。好きじゃなきゃ、こんなに一生懸命頑張ってなかったっての!」
「……私のこと好きならさ。学校辞めて、一緒に暮らさない?」
「……いやいや、先立つものが無いでしょ? 貧乏なのよ、私も親父も。だから、玉の輿を目指してお嬢様学校に入って……」
「大丈夫だよ。私が持ってるからっ!」
真面目な顔をして、まっすぐこちらを向く舞白。
「い、いやいや……。なにいってるんだよ。お前にあるわけないだろ……?」
「大丈夫だよ! 家もなにもかも捨てちゃってさ。二人で暮らそうよっ!」
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