第43話 病院へ
「白川千鶴さんのお父さんが、病院に緊急搬送されたとのことですっ!」
「はっ……? 親父が……?」
教室中が私に注目してくる。
みんなテストの手を止めて、私のことを見てきていた。
「緊急事態のようなので、テストは一時中断いたします。皆さんはお静かにお願いします!」
緊急事態だということで、先生の号令によりテストは一時中断されてしまった。
ざわざわとした空気が教室を包んだ。
みんな、私のことを見ているようだった。
ただ、それは決して悪いように見てくる瞳ではないのだ。私のことを心配してくれている瞳だ。大事なテスト中だというのにも関わらずだ。
「白川さん、一大事ですわよ!」
「ここで行かないと、後悔しますわよ!」
「う、うん」
教室に飛び込んで来た先生は、焦るように言ってくる。
「それでは、白川さん! タクシーを呼びますわ! 一刻も早く病院へ!」
先生に案内されて、私は教室を後にした。
親父のことは確かに心配な気もするけれども、それよりも大事な試験だったというのに……。
今の私には、親父よりもこれから先の人生があるんだよ。舞白との学園生活……。
この試験で良い点数を叩き出さないと……。
どうして、こんな時に倒れてるんだよ、バカ親父……。
外へ出ると、先生が呼んでくれたタクシーが、すぐに校門のところへと到着していた。私は、それに飛び乗った。先生が行き先を運転手さんへと伝えてくれる。
「運転手さん、お願いいたします」
親父が、また私の人生を邪魔するのかよ……。
私の一番大事な時だっていうのに。ちきしょう……。
世の中の親父っていう生き物は、全員クソ野郎だ。舞白の親父も、私の親父も、みんなみんなクソ野郎だ。
娘の人生をなんだと思ってるんだよ。
今までどれだけ頑張ったと思ってるんだよ、ちきしょう……。
タクシーのドアが締まろうとした瞬間、私以外にもう一人タクシーへと飛び乗ってくる人がいた。
後部座席で、私は奥へと押しやられた。
「イタイイタイッ! そんなの押さないでよ、誰よっ!!」
「お姉ちゃん、話聞いたよっ! お父さんが大変な状況だって!?」
飛び乗ってきたのは、舞白だった。
物凄く息を切らしている。どこから走ってきたのだろうか。走るの早くないし、体力だってないのに。っていうか、舞白だってテスト中じゃ……?
「舞白! アンタはテストはどうするのよっ! 私についてきちゃダメじゃん!?」
「お姉ちゃんが大変な時に、妹がついて行くのは当たり前でしょっ! お姉ちゃんのお父さんは、私にとってもお父さんだよ!!」
「はぁー!? なに言ってるのっ! アンタは戻りなさいよ! 舞白のお父さんとの約束が無効になっちゃうじゃないっ!」
「だからなによっ!! 人の命がかかってるんでしょ! それも、千鶴のお父さんの命! 運転手さん、千鶴の言うことなんて気にしないで、早く出発して!!」
「はい、かしこまりました!」
舞白の押しで、車は急発進した。
私と舞白は座席の背もたれへと押し付けられる。
「くっ……。舞白……。アンタお父さんのことだから、最悪学校を辞めさせられたりするかもよ……」
「うっさいなーっ! お姉ちゃんがグチグチ言わないでよっ! 私が好きでここに来てるんだから、お姉ちゃんはお父さんの心配だけしていてよ! 私は生きてるんだから、なんの心配も必要ないでしょっ!」
「そういう問題じゃないでしょっ!……って、うわっ!」
タクシーは、法定速度を守っているのかわからないくらい揺れて走行をしていった。ガタンガタンと、私と舞白は上下左右に揺らされながら、タクシーは進んでいく。
「お姉ちゃん。これから、どうなるかなんてわからないけど、なにがあっても私が付いているからね!」
激しく揺れる車内。
舞白は私に手を差し出してくる。凄く小さい手だ。
この手を掴んだところで、揺れが防げるわけじゃない。車内で一緒に揺られているのだから、そんな手を掴んだところで一緒に揺れるだけだ。
これから病院に着いても、舞白がいるからって、なにかが変わるわけでもない。そんなことは分かっている。
けれども、私は舞白の手をギュッと握った。
私に着いてきてくれた舞白の手は、舞白がお父さんに反抗した時と同じで、プルプルと震えていた。
舞白は初めてテストをサボったのかもしれないし、今回のテストを抜け出したことに対する負い目が相当強いのだと思う。
なのに、私を元気づけようとしている手。プルプルと震える小さな手。
なにが変わるわけでもない、その小さな手を握ると、私の心を覆っていた不安な気持ちが少しだけ和らいだ気がした。
舞白の存在。
妹という存在が、こんなに頼りになるなんて思ってもいなかった。
「……いい妹に出会えて、私は幸せかもしれない」
「……もちろんでしょ? 私とお姉ちゃんは運命で繋がってるんだからね!」
「……ありがと」
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