第26話 勉強開始!

 気まずいなぁ……。非常に気まずい……。

 起きてから、なんて会話をすればいいかわからなくて、そっぽ向きながら事務的な話しかしていない。


 なんで、キスなんかしてくるのよ、舞白ってば……。

 舞白のバカ……。


「……そろそろ学校行こうか」

「……うぃ」


 いつものように過ごそうと思うけれども、全部ぎこちなくなってしまう。どうしても舞白のことを意識してしまうのだ。ただキスしただけだよ。

 私たちは女同士だし、ただ単に気合いを入れるっていうだけの、おまじないみたいなやつだよ。そんなに深い意味があるわけでもないだろうし、私に対して「悔しかったらやり返して来いよ?」っていう挑発的なものなんだよ。きっと……。


 学校へ行く道の途中でも、私の頭の中は昨日のキスのことで頭がいっぱいだった。


「……昨日のは、なんでもないはず。ただの友達の延長線上のやつ。気合い入れるために、ビンタするのと一緒……」


「……千鶴、ぶつくさ、うるさいよ」


「……うぅ」



 そんなところへ、後ろから声がかけられた。声の主は柊お姉様だ。


「千鶴さん、舞白さん。ごきげんよう?」

「ご、ごきげんよう……です」

「ごきげんようです」


 柊お姉様には、私の挙動のおかしさが一発でわかるらしく、目をぱちぱち瞬かせながら首をかしげていた。


「今日は、お二人とも手を繋いで登校しないのですか?」


「え、えっと……、あ、あぁーー! そうでしたね、忘れてましたわー。そういえば、今は舞白と二人で登校してるんでしたよねー。……二人で。……舞白と」


 ふいに舞白の方を見ると、舞白は目をトロンとさせながらこちらを見て手を差し出してきた。


 ……いや、これは絶対に意識してるやつじゃん。舞白が、私を……!?



「……おい、千鶴! なに変な顔してるの? さっきから変だよ? いつも通り手を繋げばいいじゃん?」


「あ、あれ? 舞白の態度が普通……?」


 よくよく見ると、私の目の錯覚だったようだ。

 舞白は特に『恋する乙女』のような顔はしていなかった。ただいつも通り、子憎たらしいことを言いそうな生意気な少女の顔をしていた。


 あんなキスしたあとだっていうのに、どうして冷静でいられるの。私は目が錯覚を起こすくらい意識しまくっているっていうのに。私だけなの、こんなに緊張してるの?


 そう思うと悔しい気持ちになるから、舞白の手を握る。


「ふふ、やっぱりお二人は仲良しですわね!」


 柊お姉様は私たちが手を繋ぐのを見届けると、そそくさと先へ行ってしまった。残された私と舞白は手を繋いでゆっくり歩いて登校する。


 平常心な舞白なら、なおさら聞いてみたくなったので質問してみた。


「……あのさ、キスって初めてだったの?」


 舞白は、そっぽを向きながら答えてくる。


「……当たり前じゃん。初めてだからこそ、価値もあるでしょ。そういうのよく聞くし」



 そのあと、学校へ着くまで舞白はこちらを向いてくれなかった。私も舞白の方向けてないけども。



 ◇



 放課後になると、私は自習室へと向かう。

 絶対に絶対に、学年一位を取らなければいけない状況なのだ。なにがなんでも、死に物狂いでやるしかない。


 舞白から 前払いとしてファーストキスもらっちゃったし……。



 ……いかん!!


 頭の中が舞白で汚染されている。これどうにかせんと、いかんぞ。勉強に身が入らないのはいつものことだけれども、いつも以上に勉強に集中できない!


 とはいえ、どうしたものかと思い一度席を離れる。


 廊下に出て、息抜きをしようとすると、友達の一条彩芽がそこにいた。


「あら、珍しいですわね。白川千鶴さんが自習室から出てくるなんて?」


「あ、はい。少々事情がありまして。私、猛烈に勉強しないといけないことになったんですの」



 彩芽は不思議そうに首を捻るが、なにかに納得したように私の手を握ってきた。ふるふると手を上下へと降った。


「やっと、勉学に目覚めたのですね!」


「え、えっとー……。なんか違うんだけれども……」



「目覚めたと言っても、なかなか一人でやるのは大変ではないですか? あまり根詰め過ぎない方が良いですわよ。少々顔色が優れないようですので……」


「お気遣いありがとうございます。ご心配おかけして、申し訳ないですわ……。けど、私にはやらなければならないのです」


 いつもおっとりとしている彩芽にも、私の並々ならぬ決意が伝わったようであった。

 彩芽も真剣な顔になると、言ってきた。


「その心意気、素晴らしいですわ。それなら、いい考えがございます!」


 そう言って、彩芽は私の両手を掴んできた。

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