第6話 一緒に登校!
同じ部屋の姉妹は、登下校を共にする。
同じ部屋にいるのだから、部屋を出るタイミングを合わせるというのは百歩譲ってわかるけれども、登下校の際には手を繋ぐのが習わしとなっているのだ。
なんでそうなっているのかはよくわからないけれども、それが伝統。
私と柊お姉様は毎日手を繋いで登校していたものだ。
なので、私と舞白は手を繋いで学園への道のりを歩く。寮から学校へは、そんなに距離も無いのだけれども、手を繋いで歩くのは少し恥ずかしい気持ちになる。
「ちっ……。子供扱いかよ。絶対に手なんて繋ぎたくないんだけど」
「私だって繋ぎたくないわ。こんな生意気な奴なんかとわね!」
外に出るときは、仲良くしていないと怪しまれるということで、無理くり手を繋いでいる。というか、ちょっと触れているだけと言った方が正確かもしれいない。お互いに手を握ってはいないのだ。
「あらあらー。お二人ともごきげんよう。二人きりの生活はどうかしら?」
「あ、あら、ごきげんよう。柊お姉様!」
私は慌てて舞白の手を握る。
「ふふふ。手を繋いで登校する習わし、ちゃんと続けてくれているのね。いいですわね」
「ありがとうございます。柊お姉様に教えてもらったこと、ちゃんと引き継いで参りますわ」
私が取り繕うように答えると、舞白からは小さな声が漏れていた。
「……くつじょく」
「あら? どうしましたか舞白さん?」
「……こいつ。いや、舞白さんはなにを言っているのかしら? 私と手を繋いで登校するのが恥ずかしいのかしら?」
舞白は手を放そうとするから、私から柊お姉様にバレないようにフォローする言葉を入れる。手を振りはらって放そうとしたところで、柊お姉様が私と舞白の手をギュッと掴む。
「素直になって、手を繋いでいきましょ?」
「え、いや、マジ……?」
舞白は、あからさまに嫌そうな顔をする。
「うふふ。やっぱり仲良しって良いですわね。感情は行動についてくるものなのですのよ。だから、まずは行動として手を繋ぐの。それで自然と仲良くなれるんですわ!」
柊お姉様って、こういうところがある。独自の理論を持っていて、それを押し付けてくるところがあるのだ。それも、意外と強引。
私自身も、そうやって柊お姉様に手を繋いだけれども。あぁ……、なんだか一年前を思い出す気分。懐かしい……。
「二人とも、ちゃんと仲良くしないと、お姉さん怒っちゃいますからね?」
柊お姉様は可愛いのだ。すこぶる可愛い。
女の私だって惚れてしまいそうになるくらい可愛い。
こんなお姉様を独り占めできていたと思うと、私の一年間ってすごい恵まれていたんだろうな。
その生活はもう戻ってこない。十分過ぎるほどに堪能できたのだ。
だからこそ、次は私が後輩の子、つまり妹となる子に対してやってあげたいと思うのは当然のことだと思う。
そんな生活を夢見ていたのだけれども。
相手はというと……。
「一緒の部屋になった人っていうのは、仲良くしないとダメなんでしたっけ? なんででしたっけ?」
舞白は、もっともらしい質問をしてくる。
私も、ふと疑問に思ったことがあるけれど、直接聞く勇気はなかった。
「それはね、仲が良い方が楽しいからですわっ!」
柊お姉様は断言した。
そりゃあ、一緒の部屋になった人と仲が良い方が楽しい。当たり前のこと過ぎるけれども。
そんな単純な理由で押しきるのが柊お姉様だったりする。
「だから、仲良くしましょうね? わかりましたか?」
「はい!」
私から率先して返事をする。私はお姉様に従順なのだ。一年間で飼いならされてしまったのかもしれないし、上下関係が身体にしみついてしまっているのかもしれない。
どちらにしても、柊お姉様の言葉を聞く方が良いと思う。先輩の言うことは聞いておいた方が身のためだったりする。
一方で、舞白は顔を歪めている。意地でも従いたくないような、そんな表情に見える。
「理屈が通ってないんだよなぁ……」
「……ん?」
舞白の愚痴が小声で聞こえるが、私を間に挟んで三人並んで歩いていることで、柊お姉様には聞こえていないらしい。不幸中の幸いだ。
「舞白は、最初だから恥ずかしがっているだけだもんねー。最初はみんなそういうものだよね」
私がフォローしてあげた、これは一つの借りとしておこう。いつかこいつに助けてもらうことなんて無いと思うけどね。
「ねぇー。ちゃんと仲良くしましょうね? お姉さんとの約束は守ってくれないとダメだよ?」
「はぁー……。しょうがねぇな……。柊お姉様との約束守りますわ。手を繋いで登校しますわ!」
語気が強めになっており、言っている言葉と行動が裏腹になっている。
舞白もきっとヤンキー上がりなのだろう。睨み方が昔の私みたいだ。誰にも飼いならされたくないような、誰にでも喧嘩を売るような姿勢。
「舞白さん、もう少しお淑やかにしないとですわよ。恥ずかしくて手を繋ぎたくないっていう気持ちも、わからなくはないですよ!」
私は舞白の手を強く握りながら、言い聞かせる。
年上とかは関係なくとも、力関係はしっかり認識してもらわないとだからね。握力は私の方が強いに決まってるでしょ。
舞白は私のことを睨んできていた。
「わかれば良いのですわ。ほほほ!」
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