第1話 ナミとヒナとツクシ

 約五年後。


 月詩と日菜は心身ともに成長していた。


 まだ未熟だった体つきも成長して女性らしい体つきになっていた。


 日菜は五年前におろしていた髪を二つ結びツインテールにしていた。胸元も豊かに実っていた。


 月詩も日菜ほど大きくないが、胸元は大きく、スタイルも良かった。また月詩の場合は筋力や体力も上がっていた。


 しかし、二人とも自身の大きな胸や尻にはコンプレックスに思っていた。


 そのことを二人はナミにこぼした。


「わたくしも大きいんですから心配しなくてもいいんじゃないですか?」


『確かに……』


 月詩と日菜は同時に頷いた。


 二人が巫女寮に入ってからもナミは彼女たちのことを気にかけてくれてこうしてプライベートな時間は相手してくれていた。今では月詩と日菜の母親代わりみたいところもある。


「なんで気になってるんですか?」


「だっていやらしくありません?」


「ヒナ、それはわたくしがいやらしい人間だと?」


 ナミが笑顔で言った。ただし目が笑っていない。


「そ、そういうつもりじゃないです!?」


 慌てて日菜が否定する。


「わかってます、ちょっとからかっただけですよ」


 ナミが愉し気に口元を抑えていった。


「もう……」


 日菜が頬を膨らませて唸った。


「ヒナは日巫女を目指してるのでしょう」


「ええ」


「日巫女は太陽神に使える巫女ですし、処女であることが求められます。だから豊かな胸やお尻が男性を誘ういやらしい物だと思ってしまう、違いますか?」


「……よくわかりますね」


「わたくしも悩みましたからね」


「そうなんですか?」


「ええ、多分巫女でなくても同じ女性であればその悩みはみなあります。逆に無い人は無いことを悩みますしね。逆に武器にする子もいますけど」


「その武器にする子らと同じ人間だと思われたくないんですよ」


 巫女には大まかに分けて二種類いる。それは処女性が求められる巫女と性行為をすることで霊力や呪力を高めることができる巫女だ。


 一般的に胸や尻が大きい女は豊穣の象徴とされている。


 豊穣神を祀る巫女は胸や尻が大きい者が多いが、だが尻が軽い。


「武器にすること自体はわたくしも悪いとは思わないですけどね。それじゃああなたの胸やお尻が好きだとあなたと仲が良い人から言われたらどうですか?」


「え、普通に気持ち悪いですけど」


「えっ!?」


 そこで何故か月詩が驚いたような声を上げた。


「な、なんで驚いてるの……」


「ごめんね、私ヒナの胸もお尻も好きなんだよ。いや普通に大事な幼馴染だけどさ、好きな人のものなんだし見た目だってもちろん好きなんだよ、ごめんね、本当ごめん、気持ち悪いよね……」


「あー、ごめん、ツキ。あたしはツキのこと気持ち悪いとか思ってないから安心して」


(まあ、少しめんどくさいとは思ってるけどね)


「ほんと?」


「ほんとほんと」


「嫌いにならない?」


 涙声で月詩が日菜に問いかけた。


(前言撤回。何この可愛い生き物)


「なるわけないでしょ、あたしがツキのこと嫌いになんて」


 そう言って日菜が月詩を抱きしめて頭をなでなでする。


「えーといちゃついてるところ悪いけど、ツクシはなぜ気にしてるんですか?」


 ナミが言った。


「戦闘の際に邪魔」


「……」


 大した悩みではなかった。


「はあ、今はどうしてるのですか?」


「直接素肌の上に衣を着てます」


「さらし巻きなさい」


「巻き方わからない」


「……相変わらずポンコツですね」


「酷い……」


「あたしも同感」


「ヒナも酷い!」


「事実だし」


 月詩の抗議に日菜が言った。


 ナミが棚から大きめの四角い箱を手に取り、蓋を開いた。箱の中には上まで布が入っていて、目に見える範囲には二枚しかないが、たくさん中に入ってるのがわかる。


「これ上げるからどれか選びなさい」


「いいんですか?」


「ええ」


「ありがとうございます」


「どれがいいですか? 好きな柄選びなさい」


 ナミは布を机の上に置けるだけ置いて月詩に聞いた。


「これとこれいいかも」


 月詩が選んだのは藍色の柄のものと、黒色の無地の布だった。


「ならこれですね」


 ナミは迷わず黒色の布を渡した。


「ありがとうございま―」


「ちょ、ちょっと待ってください、ナミ様!」


 月詩がナミにお礼を言おうとしたところで日菜が慌てて遮った。


「こんな高価な物駄目ですよ、渡しちゃ……」


「高価だからこそ、意味があるのでしょ」


「い、意味がわかりません」


「ヒナ、あなたは女王を目指してるでしょう」


「は、はい」


「ならもしあなたが女王になったときはきっとツクシは護衛か補佐の立場にいるはずです。そのためにはそれに相応しい衣を持っていないといけないのではないですか」


「それはそうですけど……」


「まあ、それは建前ですけどね」


「えっ!?」


「本当はただ甘やかしたいだけです。わたくしはあなたたちのことを我が娘同様に思っています。だからあえて高い物を渡したのです。どうです、ヒナも要りませんか、さらしの布」


「あたしは持ってますから」


「それならなにか欲しい物は無いですか?」


「着飾るのは好きですけど……」


「さらしは持ってるって言ってましたけど、川用って用途で持っていくのもいいんじゃないですか?」


「それは確かにありですね」


「どうです?」


「わかりました。一枚貰っておきます。でも本当にいいんですか?」


「いいんですよ、ここにいる間はヒナもツクシもわたくしの娘ですから」


 ナミは日菜と月詩に微笑んで言った。


「そ、そうですか……」


「……」


 日菜は恥ずかしそうに視線をそらして口元を濁し、月詩は同じく恥ずかし気に頬を赤くしていた。


「ありがとうございます、母上」


「!?」


 日菜が不意に言うとナミは驚いた表情で日菜に視線を向けた。


「えっ!?」


「どうです、恥ずかしいでしょう?」


 薄らと頬を赤くして驚くナミに頬を真っ赤にした日菜が言った。


「ふふ」


 そんな日菜が面白くてナミは袖で口元を隠して愉し気に微笑んだ。


「なんですかその笑いは!?」


 むうっと唸りながら日菜が頬を膨らませた。


「ふふ、ははは」


 それにつられて月詩も袖を口元にやって微笑んだ。


「ツクシまで!?」


 月詩にまで笑われて日菜が若干涙目になっていた。


「私からも改めてありがとうございます、母上」


「あらツクシはそんな恥ずかしそうでもないのね」


「私はナミ様のこと母同然とお慕いしているので、恥じることはございません」


 月詩は言いながら日菜に楽しそうな顔を向けた。


 それを見た日菜が再び頬を膨らませて、月詩を睨みつけた。


「ふふ、あんまりヒナをからかっては駄目ですよ、ツクシ」


「それをナミ様がいいますか」


「もう……」


 そんな二人に日菜は不満気な表情で唸るのだった。


「二人とも選定祭頑張ってくださいね、応援してますから」


『はい!』


 ナミの言葉に日菜も月詩も頷いた。


 応援してくれるナミの期待に応えられるように今度行われる巫女選定祭を頑張ろうと誓う日菜と月詩だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る