【百合ソナタ】放課後の旋律は、桜散る想いとともに〜ふたりが重なるハーモニー〜

波の音

プロローグ

 四月のはじめ、まだ肌寒い朝。桜ヶ丘高校の正門前では、淡いピンク色の花びらがゆっくりと舞い落ちている。


 まるで、次の季節へと急かすかのように。


 私は高橋さくら。今日から桜ヶ丘高校の二年生として、この学校に転入してきた。父の転勤に合わせて、引っ越しと転校を繰り返してきた私にとって、新しい学校というのはいつも胸が騒ぐ場所だった。期待と不安が入り混じった複雑な思いがある。


 昇降口へ続く道を、一歩、また一歩と進む。そのとき、すっと視線の先に、華やかな雰囲気をまとった少女の姿が見えた。


 ウェーブのかかった茶色の髪を肩甲骨あたりまで伸ばした、上品な佇まいの女の子。長い睫毛の奥に揺れる瞳は、どこか憂いを帯びているようにも見えた。背筋が自然と伸びていて、自信に満ちあふれているようにも思える。


 彼女は私には気づかないまま、踵を返して校内へ姿を消す。


 胸の奥で、何かが小さく弾けたような気がした。それが一体何なのか、まだ私にはわからない。


 だが、この出会いが私の世界を大きく変えていく。ほんのかすかな予感が、私の心をざわつかせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る