第106話 美味しいは正義
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第106話 美味しいは正義
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ソルバーン家がジール州を統一したことで、お祝いの使者があっちこっちからやってきている。
トルク様は毎日のように使者の相手をし、その際に養父カインが補佐を行っている。養父は家格でいえばソルバーン家よりはるかに高いから、こういう時にとても重宝される存在だ。
「ふー。この歳になると毎日使者の相手は堪えるのぅ」
「お疲れ様です、お義父様」
「おお、クラリッサよ、ありがとうな」
今日は俺、スライミン姫、クラリッサで、毎日の激務で疲れている養父をもてなしている。
クラリッサに酌をされた養父は微笑みながら盃を傾けた。
「来年になったら、早々にノイスに家督を譲る。その後は気楽な隠居生活だ。頼んだぞ、ノイス」
「そう簡単に楽隠居はできないと思いますよ」
「そんなに儂を過労死させたいのか?」
「過労死しない程度に働いてください」
「まったく、この息子は……」
俺はまだ酒を飲まないが、養父の盃に酒を注ぐ。
こういう一家団欒も悪くない。そのうちソルバーン村に帰って、祖父母、両親、ケルン兄さん夫婦と酒を飲みたいものだ。
養父は盃をクイッと傾ける。その顔に刻まれた皺が、これまでの苦労を物語っているようだ。
今日はソルバーン家の会議だ。
最近会議ばかりで、本当に嫌になる。家が大きくなるということは、こういった弊害があるんだよな。
俺は現場主義なのに、現場に出る時間が少なくなってしまった。はぁ、山に入って、あの緑の世界を堪能したい。狩りをして、皆で肉を焼いて食いたい。
最近こういったことができずに、フラストレーションが大きくなっていく。
「ぃす……ノイス!」
「え、あ、はい。何でしょうか?」
「ボーっとしてどうした。ノイスらしくないぞ」
俺らしくないか。こんな会議ばかりの生活は本当に俺らしくないな。
よし決めた! 会議は少なく、そして短くだ! 会議改革をするぞ!
「トルク様。会議の頻度が多すぎます。業務に支障が出ています」
「領地が大きくなると、会議が増えるのは仕方がないことじゃないかな?」
「そこですよ! もっと家臣に仕事を振りましょう。重要案件だけ、トルク様が決裁すればいのいです!」
「そ、そうか……?」
「そうですよ! グラードン殿もそう思いますよね!?」
「会議が多いというのは某も同意見であるが、どうするというのかね?」
「トルク様にも提案しましたが、家臣に仕事を振るのです。そうですね、林業、農業、商業、工業、軍事にそれぞれ責任者を置き、その人たちが判断して仕事を進める。トルク様への報告は定期的に行う。全体会議は季節に一回、緊急の案件はその都度でいいのではないでしょうか」
「なるほど……」
「うん、そうだな。それじゃあ、ノイスは会議を少なくするための案をもっと具体的にするように。今日はここまで」
え、俺? くっ、仕方がない。言い出しっぺだからやらないといけないか。
会議後、自室に入ってすぐに案を具体化していく。
林業、農業、商業、工業、軍事、あとは財政と警察機構をプラスすればいいか。とりあえずやってみて必要と感じたら増やせばいい。悪いところは、その都度改善すればいい。
各責任者を『行政担当官』としようか。
職務としては、林業は山林と狩りの管理かな。農業は畜産も含めて管理させよう。商業は商取引を含め弱いものから買い叩きがないように監視も含めよう。工業は生産物の品質基準を設け、特許も管理させよう。軍事は常備兵をいくつかに分けて、警察機構を含めて組織化を図ろう。あとは財政だな、何をするにもお金が必要になるから、肝になる部署だ。
各部署の行政担当官を誰にするか。今はいいが、将来は悪さをする者が現れる可能性は否定できない。そういった者を監視する者も置かないといけないな。
色々考えていたら、夜中になっていた。
今から屋敷に帰っても皆を起こしかねない。今日は城で夜を明かすとしよう。
喉が渇いたので、お湯をもらいに部屋を出る。
「ボス」
シューが扉の横に立っていた。俺の警護をしていてくれたようだ。
「シュー。腹は減ってないか?」
「減りましたね」
「よし、ついてこい」
「アイアイサー!」
城の賄い処(キッチン)にいくと、宿直の人が慌てて背筋を伸ばした。たしかペペスという二十前半の料理人だ。
「すみませんが、腹にいれるものは何かありますかね? それとお湯を」
「すみません、今はロクなものがないのです。朝になれば、色々な食材が入荷するんですが……」
「そうか~。あ、小麦粉くらいはありますよね?」
「はい。小麦粉ならたくさんあります」
「ちょっと厨房を借りますよ」
「はぁ、構いませんが……?」
小麦粉を水で溶いて、牛乳、卵、塩、砂糖、重曹を入れてかき混ぜる。あとはフライパンの上に伸ばす。膨らんできたらひっくり返して、適度に焼く。
「おい、シュー。ハチミツを取ってくれ」
「アイアイサー!」
心なしかシューの声に喜びが溢れている。
「ペペスさんはバターをお願いします」
「はい!」
もう分かったと思うけど、作っているのはホットケーキだ。上手く膨らむか分からなかったけど、意外といい感じに膨らんだ。あとは美味しいかどうかだ。
皿につけたホットケーキに、バターを一欠片とハチミツをたっぷりかける。
「シュー、食ってみろ」
「いいんですか!?」
「ああ、いいぞ」
「毘沙門天様に感謝を! ……うっまぁぁぁいっ! なんだこれ!? 美味すぎる!?」
食事の前後に、毘沙門天様への感謝を忘れない。それが毘沙門党員である。
「はい、ペペスさんもどうぞ」
「あ、あっしもいいんですか?」
「もちろんです。味の感想を聞かせてください」
「ありがとうございます! ……美味しい! なんですかこれっ!?」
「ボス! 俺、一生ついていきます!」
いや、お前はもう俺の配下だから。
「あっしをノイス様の弟子にしてください!」
いや、俺は料理人じゃないから。
「美味しいな」
俺も食べたけど、前世の若い頃に食べたホットケーキに負けないくらい美味しかった。
俺、料理人の才能があるんじゃね?
「美味しいは正義だ」
マジそう思うわ。
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