第6話 良い事思いついたー
「住み込みで? 時任さんを?」
「そうよー。ここで生活すれば、移動時間ないから気軽に警護してもらえるしー。りっくんが懸念している問題点も解決できるんじゃない?」
たしかに仕事とはいえ休日に警護を頼む度に、ここまで来てもらうのは心苦しい……。
でも、同じ家に居れば、すぐ時任さんに頼んで外出も出来るし、その日一日家で過ごす時は、外出しないことを伝えることで気兼ねなく過ごしてもらえるな……。
いや、個人の時間も欲しいんじゃないか? それに時任さんの意見をまだ聞いてない。
「ママの提案はとても魅力的だけど、まだ時任さんの意見を聞いてないよ」
「そうだったわね。まぁ答えは分かってるんだけど、一応聞いてみましょうか」
分かってる? な、なんでそんな断言できるんだ?
「時任さん、どうですか? 我が家に住み込みで働きますか? もちろん、個人の部屋はご用意させて頂きます。今は使ってない物置きの部屋を片付ければ、スペースは確保できますよ」
「……この上ないご提案です。寧ろ皆さんは宜しいのですか? 私のような部外者と生活を共にする事を」
時任さんは少し戸惑いを見せながら俺たちに聞いてくる。
それにママと優羽はハッキリと答える。
「りっくんの命を守ってくれるんですもの。そんな方は部外者ではなく家族みたいなものでしょう? 私は一緒に過ごしてくれたらと思うわ」
「時任さんは他の人とは違って、信用できる気がするんだよねー! 安心してお兄ちゃんを任せられます! 家も絶対安全じゃないだろうし、護衛官が常に家にいてくれる方が今後の心配事も減りそうだから、私もさんせー!」
二人が歓迎の表明をした所で、こちらを向く。
時任さんも緊張した面持ちで俺と正対する。
最後の決定権は俺ってことか。
「……時任さんがウチに住んでくれるなら心強いです。これからよろしくお願いします」
「「わーい!」」
時任さんに俺が頭を下げてお願いした所で、ママと優羽がワッと盛り上がった。
時任さんもかなりホッとした様子。
まぁ、俺としても願ったり叶ったりな状況だ。
クール系長身女性が照れたり恥ずかしがったりした時にはもう最高にテンション上がるからな。同居しているとそんな機会沢山ありそうだし、これは楽しみだな!
その後、細かな条件の確認や契約書にサインなどして、無事に住み込みでの定期契約を結ぶことができた。
「あら? もうお昼時だわ〜。りっくん、お昼ご飯食べる?」
そういえば朝からずっとドタバタしてて、何も口にしてないな。喉も乾いたし、腹も空腹を訴えてる。
「めっちゃお腹減ったよー」
「じゃあ何か作るわ〜。リクエストはある?」
リクエストか……。前は母ちゃんが作るオムライスが好きだったけど、こっちの世界だと味付けとか変わってるのかな。頼んでみるか。
「材料あるならオムライスがいいな」
「オムライスね、いいよ〜。 時任さんもオムライスで良いなら一緒にいかが?」
「私も宜しいのですか?」
「もちろんよ〜。これから一緒に暮らすし、遠慮はいらないわ!」
「では、お言葉に甘えて」
「はーい」
ニコニコしながらママがキッチンに立つ。
優羽はテーブルに両肘をつき、顎に手をを添えてニコニコして俺を眺めてる。
もう堅苦しい空気はないから、リラックスしてるな。斯く言う俺も少しだらけた状態で座っている。
時任さんはずっと背筋を伸ばした状態で椅子に座っている。
うーん。固いなぁ。
「時任さん。ママも言っていましたけど、これから一緒に暮らすし早く仲良くなりたいから、名前で呼んでもいいですか?」
「……! ……もちろんです」
お、ちょっと嬉しそう? もう少し踏み込んでも良いかも。
「ありがとう。あと、敬語もやめたらもっと仲が深まると思うんですけど……、透さん、ダメかな?」
「……ッ! ……構いません。まず警護対象の男性が私共に対して丁寧な物言いをしないことが普通なので、律様が私に敬語で話す必要はありません」
マジか。こっちの世界の男性は太々しい態度しかしないのか? 男性は希少だから、周りからも甘やかされて尊大な人間が完成するのかな。
「そうなんだ。じゃあママと優羽に接するみたい話すけど、決して透さんに敬意が無い訳ではないからね? とても頼りにしてるからね?」
「承知しております。お会いして始めの挨拶から敬う心は伝わってきました。こんな男性は今までで初めてでした。だから私だけで貴方のことを護りたいと思い……」
ん?
「私だけ?」
「あ……」
透さんの顔にしまったと書いてある。
「そうよ〜。透さんはね、りっくんの警護を独り占めしたいあまりに、透さんの休日には代わりの警護官が来る手筈なのに、来ないなんて嘘ついちゃったのよ〜」
「「えぇー!?」」
ママは手際良く料理しながら、サラッと真実を教えてきた。
俺も優羽もびっくりだ。
だから、代理の人が来るのか聞いた時、返答にラグがあったのか!
「な、なんで教えてくれなかったの!」
「だって嘘ついてまでりっくんの専属担当になりたいだなんて、透さんは必ずりっくんのこと護ってくれるってことでしょ?」
ママが意味深に透さんに向かってウインクする。
ママに自分の嘘をバラされ、恥ずかしさで赤面していた透さんがガタッと立ち上がる。
「必ずや! いかなる脅威からも律様の綺麗な肌に傷一つ付けず、護り切る事を誓います!」
「もう契約書も交わしちゃったし、何も不利益な事はないし、いいんじゃなーい?」
確かに忠誠心は高そうだし、問題はないけどさー。
今後また嘘つかれたら、困るしなー。
「じゃあ、許す代わりに一つだけ」
「な、なんでしょう」
透さんが審判を待つ罪人みたいになってる。
ちょっとかわいい。
「俺にはもう嘘つかないでね」
パァっと光明がさしたような表情になった。
「律様には今後一生偽らない事を約束します!」
「それならよし」
「ははーっ!」
もう最初のクールな印象どっかいったな。
今は……殿と家来?
「それにしても、透さん。そんなに俺のこと気に入ってくれたんだ? どこが良かったの?」
途端に透さんは少し照れくさそうにする。
「さ、最初は私共のような男性警護官にも敬意を払ってくれる所に……。しかし、今は私のような図体が大きい女に怯えず、あまつさえ名前でお呼び頂ける所が……その……初めてで……」
どんどん言い萎んでいく透さん。
「お兄ちゃん、透さんなんかかわいいね」
「同意。でかいワンちゃんみたいじゃね?」
そうだ! 良い事思いついたー。
まるで散歩でもするかのように自然に透さんの真横まで行き、耳元でボソッと、
「これからよろしく、透」
「っ!?!?!?」
嬉しさと羞恥でごちゃごちゃになった表情でこちらを見て固まる。
その後、限界を迎えたのか。
「頭冷やしてきますーーー!!!」
そう言って透さんは玄関を飛び出して行った。
「もうオムライス出来るから早めに帰って来るんだよ〜」
ママが玄関に向かって声を掛けたが、聞こえたのかどうか分からない。
こうして、からかいがいのある人が我が家にやってきた!
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