第5話 ドヤるなドヤるな
ふむ、控えめに言って最高。こんなに楽しいとは。前の世界のオタクをからかうギャルはこんな気分だったのかな。これはやめられない。
ただ、自分であざとい言動をするのはなんかこう……精神的ダメージががが……。
ま、まぁいずれ慣れると信じておくか。
とかなんとか思いながら自室のドアを開ける。
「……? あー、分かった」
今朝起きたときの違和感はあれか。学校関係の持ち物が全く部屋に見当たらないから感じたんだ。スッキリした。
クローゼットを開けると、不織布のカバーが取られてない新品の制服がハンガーにかかっている。床にはその他学校関連の持ち物も段ボールに入っている。
ホントに一回も学校に行ってない。いや、行く気がなかったんだな、俺は。
軽く嘆息して、少し急ぎ気味で制服に着替える。
一階に降り、洗面台で一通りの身だしなみを整える。
「……うん。変わらずフツメンだな。別の世界に来るなら、特典かなんかでちょっとくらいイケメンにしてくれても良かったんですけど?」
神様への愚痴を鏡に向かって言っても当然何か返答がある訳でもなく。
すごすごとリビングへ戻ろうとすると、会話が聞こえる。
「今のお兄ちゃんなら着替え覗いても、少し叱るくらいでなんだかんだ許してくれそうじゃない? それにお兄ちゃんに叱られるのちょっと憧れだったっていうか……」
「確かに……。りっくんに叱られる……。ありだわ……。い、いや駄目よ! 万が一それで嫌われちゃったら、ママ一週間は泣いちゃう!」
「くっ! 嫌われて今の優しいお兄ちゃんに距離を取られたくない。でも、私の欲望が! 心が! お兄ちゃんの生着替えを見たがっている! 困った顔で私を窘めるお兄ちゃんを見たがっている! どうすればいいのー!?」
非常に出づらい……。これ聞いてて良い会話なのかな?
「困った性癖だな……」
「お、お兄ちゃん!? ……わぁ!」
「り、りっくんこれは違うの! ……わぁ!」
俺はちょっと呆れながら入室する。
二人は俺を認めた途端、にわかに色めき立つ。
何に対して驚いてるのか分からないけど、驚き方が同じだ。流石親子。
「お、お兄ちゃん! 制服めちゃ似合ってるよ! 写真撮ってもいい!?」
「あ、あぁ」
「制服姿のりっくん、新鮮で素敵……! ゆーちゃん、あとで写真送って! や、やっぱりママも撮りたい! 良い、りっくん?」
「お、お好きにどうぞ」
突如始まった制服撮影会ソロステージに二人はキャピキャピしながら、色んな角度で俺をスマホのレンズに収め続けた。
一体何枚撮るんだ……。
『ピンポーン』
「あら、警護官の方がいらっしゃったみたいね。撮影会はお開きにしましょうか。ママちょっとお出迎えしてくるわー」
そう言ってママは玄関に向かって行った。
俺たちはテーブルについて、ママが警護官をリビングに案内するのを待つ。
「どんな人かなー?」
「どんな人だろうね」
適当な返答でも優羽は嬉しそうにしている。会話できるだけでも嬉しいのか? 愛いやつよ。
玄関の開く音がし、何を話しているのか聞き取れないが話し声がリビングまで聞こえ、足音が二人分こちらへ近づいてくる。
予め席を立ち、出迎えの準備をする。
優羽も俺に倣い、椅子から立ち上がる。
すぐにママがリビングのドアを開ける。
「どうぞ〜、こちらリビングです〜。息子の対面にお掛け下さい〜」
ママと一緒に現れたのは、ピシッとしたスーツを着こなす黒髪の長身女性だ。
キリッとしたつり目がちょっと威圧感を与えてくるが、長い髪をポニーテールにしているところが威圧感を和らげてくれる気がする。
「本日はご自宅にご招待頂きありがとうございます。私は男性警護官の
俺の対面の椅子の隣で立ち止まり、警護官の方が一礼とともに自己紹介をする。
す、すげえ。挨拶一つで動きが洗練されてるのが分かる……。
「ご紹介しますね、こちらが今回護衛をお願いしたいりっく……じゃなかった、
時任さんの熟練度さに呆気に取られていると、ママが右斜め前の椅子まで来て俺たちを紹介していた。
いかん、俺も自分で挨拶しないと。
「藍原律と申します。急なお呼び出しをしてすみません。本日はよろしくお願いします」
失礼のないよう頑張って挨拶したが、辿々しくなったかも。
時任さんの表情を窺うと、僅かに眼を見開いて驚きが垣間見えていた。
「妹の優羽です! よろしくお願いします!」
優羽の元気一杯の挨拶で、時任さんは先程のキリッとした表情に戻った。
「こちらこそ宜しくお願い致します。早速ですが、律様は本日からの警護をご希望とのことですが、どこか外出する予定がおありですか?」
「はい。今まで学校には行かず家にずっと居たんですけど、今日から学校へ毎日通おうと思っています」
「理由をお伺いしても?」
あれ、俺が面接するんじゃなくて、俺が面接されてね? いいんだけども。
「勉強をして、将来家族に恩返しをするためです」
女の子をからかいた〜い! とは当たり前に言えず。
「……初めて見ました、律様のような男性は」
「ウチの自慢のりっくんです!」
「お兄ちゃんです!」
驚愕を露わにする時任さんに対し、ドヤ顔で誇らしげにする親子。
ドヤるなドヤるな。
「お母様からお電話を頂いた時に一番優秀な方とご指名された理由が分かりました。これは一般的な警護より何倍も警戒しないといけませんね。学校がない日は家でお過ごしになられますか?」
マジで世の女性は少し優しくされただけで誘拐監禁コンボしかけてくるのか。優羽の言うことマジだったんだな。
うーん、ずっと家はいつか飽きが来るだろうし、外出するのは確実だ。
「いえ、時折外出すると思います」
「かしこまりました。律様は何か私に質問等はございますか?」
時任さんに対する個人的な質問はあるけど、定期契約に関する質問は特にないなぁ。
あ、あったわ。
「護衛してもらう時は、今回のように電話をしたらここに来るんですか?」
「はい、そのようになります」
「御自宅から?」
「自宅からもありますし、男性警護事務所からの場合もあります」
今の所、俺は毎日学校に行くつもりだから、月曜日から金曜日警護してもらう。さらに土日にふいに外出したくなって呼び出したら、もう時任さん休み無いじゃん。しかもいつ呼び出しがくるか分からないから、自宅でも休まる暇なし!
呼び出し辛いな……。
いや、流石に時任さんが休みの日は代理の人が来るのかな?
「時任さんが休みの日は代理の人が来るんですか?」
「……来ません。私が来ます」
ん? なんか返答にラグがあったな。
「でも、それじゃ時任さんの休みはどうなるんですか?」
「定期契約を結ばれると、必要とあらばいつでもお呼び出しに応じるので、休みは無いです」
マジかよ。申し訳なさで気軽に外出の予定立てれないんだけど……。
どうしよう、定期契約は結ばないほうがいいのか? でも、時任さんが一番警護に信頼おけるんでしょ、警護頼んでも毎回時任さんが来るわけじゃ無いと思うし……。うーん。
どうしたものかと悩んでると、今までずっと聞き専だったママが俺の悩みを見抜いたのか、とんでも無いこと言い出した。
「じゃあこうしましょう! りっくん、我が家に住み込みで働いてもらうのはどうかしら?」
「はい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます