第9話

「これ……」


 それは、直近にアップされたブログの画像だった。

 電車からの風景写真だが、フィルターがかけられていても、そのボヤけた輪郭には見覚えがあった。

 河川の上を通過している時に写したものだろう。車窓の向こうに大きな橋が見える。

 更にその向こうに、霞んで見える塔のような高い建物。

 ゴミ焼却場の煙突だと感じた。



 毎朝、



(この人……もしかしたら、同じ沿線に住んでるの?)


 そう思い、他の画像も見てみる。

 かなりボヤけているが、自分の知っている景色と似ていると言えば似ている。

 確信は持てないが――


 ただ、フィルターのない画像に限っては、どこにでもありそうな空や草花など漠然とした物なのに対して、ピンボケ画像は街の中の具体的な風景なのが気になった。


 今まで、自分の感情でピントを合わせたり外したりしていたものとばかり思っていたが……

 ピンボケにしていたのは、自分の居住エリアを特定できなくするためだったのでは?


 そう思うと、アーティスティックでもなんでもない。

 普通に身バレを気にする、ややメンタルが不安定な人――なのかもしれない。


 聡美は、意外と近くにいるかもしれないと知って、少し怖くなった。

 向こうから、こっちの素性が分かることはないが、勝手にお気に入り登録されたり、求めていないのに更新通知が来たり。


 変な操作でもされているんじゃ……と、勘繰りたくなる。


 深く関わってはいけない。

 そう感じた聡美は、自身の登録をブログサイトごと消すことにした。

 お気に入りの猫のブログを気軽にチェックできなくなるのは面倒だが、仕方がない――そう思い、全て消去した。




 ――それからしばらくは、何事もなく過ぎた。

 尾高との仲は急速に進み、今では時々聡美の部屋に泊まりに来ることもある。

 ほぼ同棲に近い状態だった。

 結婚という具体的な話は出ていないが、互いにそれを意識しているのは明白だった。


 一緒に住むようになると、互いの私生活が見えるようになって喧嘩が絶えなくなる……と聞くが、尾高は大抵のことは許容して感情的になることはほとんどなかった。

 逆に、ワガママで自分勝手な聡美を気遣い、あれこれ手を焼いてくれる。

 有難かったが申し訳なかった。


 料理もあまり得意ではないし、掃除もマメではない。

 こんな自分と結婚したら、きっと後悔するぞ……そう思わせるつもりが、尾高は気にする風もなく、むしろ率先して家事に回る。


 職場とは関係のない友人に話したら、「案外いい組み合わせなんじゃない?」と笑った。


 こんな人、ここで別れたらもう二度と出会えないかもしれない――



 聡美の脳裏に、結婚という二文字が大きく過った。

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