第8話
「流石にホテル生活も飽きてきたわね」
瑠亥はダンジョン協会が用意したビジネスホテルの一室でパソコンを見ながらそう呟く。
ふとカレンダーを見れば、今日は5月18日あれからすでに5日の時が経過していた。
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時は戻り瑠亥が中継車を焼き尽くした直後、瑠亥は探索者を閉じ込めていた炎のドームを解除すると、満足そうに焼き後を見つめていた。
「飛び掛かるとかバカな真似はやめてよね」
炎から解放された探索者のうち杖を持っている女が、ガントレットを装備した拳を握りしめながら震えている男にそう声を掛ける。
「わかってるよ。流石にそこまで馬鹿じゃねぇ。俺が何をしたって一瞬で灰にされるだろうぜ。だけどよぉ、これは....これはだめだろ........」
それに同意する声こそ上がらなかったものの、そこにいる瑠亥以外の全員の気持ちは同じであった。
「五十嵐さん、この後はどうしますか」
剣を腰に刺したもう一人の男の探索者が瑠亥から視線を外さずに問いかける。
「拘束は無理でしょう、せめて我々の目の届く範囲にいてもらえるよう宿の提供から始めましょうか」
「これだけの事をした者を見逃すと?」
少し怒気を含んだその声に、五十嵐は諦めのようなため息をつきながら答えた。
「あなたもわかっているでしょう。もう我々でどうこうできる次元の話ではなくなってしまいました。後の判断は国の方でしてもらいましょう」
男はそれに納得はいっていない表情をしていたが、何も言わず引き下がった。
「危険では?」
歩き出そうとした五十嵐に千景が声をかけるが構わずそのまま歩き出した。
「本当は行きたくないけど、仮にも支部長だからさ。それにこの距離でも普通に聞かれてる気がするんだよね」
「お供します」
後に続いて歩き出す千景を止めようと振り返るが、その顔を見て諦めたのか五十嵐は千景を伴ったまま瑠亥のもとへ向かった。
「瑠亥さん、少しお話しよろしいでしょうか」
振り返った瑠亥は相も変わらず満足そうな晴れやかな顔をしている。
それに五十嵐は違和感を覚える。
先ほど応接間で話した時とは明らかに何かが違う。表情や態度などではないもっと根本の部分、この短い間に彼女の中で何があったのか。
五十嵐は支部長として長年培ってきた経験から瑠亥の変化を感じ取るが、正確に読み解くことはできない、ただ一つ分かるのはよくない方向に進んでしまったことだけだ。
「いいわよ、正直泊る所もお金もないしね。まあダンジョンのアイテムを換金すればいくらでも手に入るけど、そのダンジョン協会がしてくれるか怪しいしね」
瑠亥は当たり前のように先ほど五十嵐達がしていた会話に対しての返答をした。
「やはり聞こえていましたか、それではすぐに宿の手配をします。それとアイテムならむしろ積極的に買い取らせていただきます。最下層のほうのアイテムなど協会にもありませんから」
五十嵐は出来るだけ和やかに会話を進める。
「何を売るかは私が決めるわ、それとダンジョン協会に宿泊とかはいやよ。普通にビジネスホテルとかにして。あと出ていきたくなったら勝手に出ていくから」
「宿はそのようにいたします。出来ればしばらく留まっていただきたいですが、私はそれを止められませんので」
五十嵐の答えに瑠亥は満足し頷いた。
「最後に一つだけよろしいですか?」
「なに?」
五十嵐は瑠亥を刺激しないように穏やかに、しかし覚悟を決めて問いかける。
「瑠亥さんはなぜダンジョンを攻略したのですか、地上にはいつでも戻ってこれたはずです。なのに2年間もの間一度も戻らず。いったい何の為に」
瑠亥は悩むことなく底冷えするような冷たい笑みを浮かべながら答えた。
「自由の為に」
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瑠亥はこの際少しゆっくりしようとホテル生活を満喫していた。約二年間一人でダンジョンにいたのだ、安眠などはできず食事もアイテムとしてでるものしかない。そんな生活がやっと終わったのだ。瑠亥は羽を伸ばしながら5日間を情報収集にあて、おおよその現状を掴むことはできた。
「相変わらずネットは私への批判ばっかりね。全員殺してやろうかしら」
瑠亥はパソコンを眺めながら独り言ちる。
この5日間で協会や警察からのアクションはとくに無かった。初日は扉の前に監視がついていたが不快だったからすぐにどけさせた。一日一回五十嵐か千景が様子を見に来るがそれだけだ。五十嵐も詳しく教えてくれはしないが、まあ揉めているらしい。そんなことは私には何の関係もないからどうでもいいけど。
そんな事を考えながら瑠亥はネットの記事を流し見ていく。どこの記事も瑠亥の事ばかりで代り映えせず何も面白くない。
しかしこの暇つぶしのネットサーフィンで復讐をする四人の現状がおおよそ判明したのは大きい。
まず父は、勤め先の病院にマスコミが押し寄せ今は自宅からは出てきていないようだ。
そして私をいじめていた三人の女どもは、母である明美と同じように私を利用していた事が分かった。三人は私の親友としてテレビや雑誌の取材を受けたり、ミソスタやZなどのSNSでもインフルエンサーとして華々しく生活していたようだ。当時から見た目は悪くなかった私をお飾りとして利用してSNSに上げるための写真があいつらのスマホには大量に入っているだろうから、何も知らない人間から見たら仲良しこよしの四人組に見えるだろう。裏ではひどいいじめをしてようが周りにばれるような事はしてこなかった姑息な三人だ。
逆にそのせいで今は大量殺人犯の親友として散々たたかれていて、父と同じように表には出てこれなくなっているようだ。ちやほやされて生活していたこいつらには世間からの誹謗中傷はさぞ苦しいだろう。
母の時は衝動的に殺してしまったから、こいつらはしっかりと考えて苦しめてから殺してやる。
瑠亥は改めてそう決意を固めた。
しかしそれも少し先の話だ。今はこのホテル生活を満喫するため暇つぶし兼情報収集の為に掲示板サイトを開いた。
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