第4話 魔王の正体
「え?」
「えっとあっと、あ!見るなあぁぁ!」
このモフ耳は顔を背け、両手をこちらに突き出している。
「お前、猫だし茶髪だし女の子だしで…何もかも違うじゃないか」
「こっこれは…!この姿だと舐められっぱなしだから、威厳ある男に変身してただけで、魔王って言うくらいなら見た目も怖い方がいいしさ…?…もういいわ!ああそうだよ!私の正体はこんな感じだよ!ほら、なんとでも言ってみろよ!!」
コイツ、速攻で開き直りやがったぞ。ってか、一人称まで変わるんだったら、最早別人じゃないか。
「…一人称を我にするとか厨二じゃん」
「ぐぁぁぁぁぁぁあ!!やめて!効く!それは結構効くからぁぁぁぁぁ!あとその目!その人では無い何かを見つめる目をやめろよぉぉぉぉ!」
なんだか悶えている。確かになんだコイツとは心の底から思っているが、別に可愛いなら可愛いでいいじゃないかと思うんだけどなぁ。
「?」
「うっうう…」
「なんだ?急に身体が軽くなったような気がするぞ…?」
「ん?…ああそれは、レベルアップじゃないかな…」
「レベルアップ?」
「うえーん!わーん!!」
「ダメだこいつ。使い物にならねえや。とりあえずステータスを開いてみるか。なにか数値が変わっていれば、解釈一致のレベルアップということで良さそうだしな」
サトウ スマキ
HP:595837/595837
MP:€\%^\\〆~&*$**
攻撃値:979856
防御値:1293542
俊敏値:10002
クリティカル率:15.5%
器用値:9999999999999999
「おっ、いい具合にレベルアップしてるな。でもなぜレベルアップしたんだ…?それらしい事は大してしていないのだがな…?まお…いや、そこのモフ耳、なんか知ってるか?」
「うえーーーーーん!!私魔王だもん!!世界が恐れおののく最強の魔王だもーーん!!だから魔王って呼んでよーーー!」
「…答えてくれ、モフ耳」
「ねーーーーーえーーーーーー!!!」
そうやって駄々をこねるこのモフ耳は、夜まで泣き喚くのだった。ちなみに俺も俺で王の威厳を感じないやつに魔王と言いたくなくて、ずっとモフ耳と呼び続けた訳だが。
~その日の夜~
「スマキなんか嫌いだ!もう…!」
魔王じょ…モフ耳城のてっぺんに、彼女の部屋はある。
「…なんか今誰かにバカにされた気がするんだけど…?」
とりあえずスマキを厨房近くの部屋に泊まらせて、自分の部屋まで逃げてきた。私は威厳ある魔王なんだから!モフ耳なんかじゃないのに!あのスマキとか言うやつ…!私の事頑なに魔王って呼んでくれないし!
「そもそも、寿司とやらが美味しすぎるのがいけないんじゃん…!」
魔力回路を溶かしてしまう程に、舌に全神経が集まってしまったんだ。あんな美味しいなんて…聞いてない!
ふと、部屋にあった鏡を見る。
「私は威厳ある魔王、私は威厳ある魔王…私はいげんあ…」
無いよ!こんなちっこい姿じゃ!
何だこの容姿!茶色くてもふもふした髪の毛!もふもふしたしっぽ!もふもふした猫耳!もふもふしすぎなんじゃい!しかも猫耳なのに瞳孔がまんまるで可愛らしい!なんだこの可愛い要素が完璧に詰まった顔面!
「でも威厳ある魔王なんだ私はぁぁぁぁぁあ!!!」
なんだかさっきからうっすらと声が聞こえてくる。声的に多分あのモフ耳の…名前…名前…。
とにかくあのモフ耳だ。
グゥゥ‥
「おっと、流石に昼飯を抜いてしまったから腹が減ったな。どうしようか。近くに厨房あるし、そこで適当に何か作るとしようか?だがあのモフ耳がなんと言うか分からんしな…」
「ダーレガモフミミジャイチクショーーー!!」
「…気は引けるが、説得がてら聞いてみるか」
そして俺は城の頂上に向かった。
~モフ耳城のてっぺん~
「うぇっぐ、えっぐ、えーーん!!」
「…全く」
まだ泣いているのかあのモフ耳は。こいつは説得が面倒くさそうだ。だが仕方ない。
「入るぞ」
「えっ!?ちょっ、ちょっと待っ
俺はそんな制止を聞き止めもせず、部屋に入った。
「なに…?か弱い女だからってここで襲っちまおうってか?」
「そんな発想に至るのはお前だけだ」
「じゃあ、なんの用…?」
「まぁまぁそう睨まないでくれ。確かにおじさんが声ちょっとかけてきて部屋に入ってくるのは怖いかもしれないがな」
「わかるなら来てもらえないでくれるかな!?」
「お前には2つ用事があるんだ」
「…なにさ」
「どうしてそこまでその容姿を嫌うんだ?俺は全然いいと思うけどな?そもそも、魔王だからって可愛くても良いだろうし、そもそもなんで魔王なんてやってるんだよ?」
「…」
「…黙秘か?」
「…いや、言う。私は、本当に強いの。ステータス値の合計で言えば、歴史上類を見ないと思う。そのせいで、私は打首が決定されてしまった。悲しいよね?普通の女の子として産まれたのに、ただステータス値が高いってだけで殺されちゃうんだからさ」
「…そうか」
「うん。打首になるって聞いた時はこんな思考しか出来なかった。でも私って可愛いじゃん?」
「自分で言うな」
「これってナメられてるから打首って言われてるんだと思ったの。だからさっきの男の姿になってたの。これが真の姿だって言えば、王族の連中はきっとやめてくれるって信じてた。…でも違った。所詮人間は自分より優れた人間を殺したがる」
「…確かに、それは辛かったな」
「…まあ、問題はそこじゃない」
「ほう?」
「…超絶イケメンのつもりで作った変装が、町中の子供達にキモイって言われてたんだよ…!」
「ん?話の雲行きが怪しいぞ?」
「私は思ったね…!こんなイケメンをキモイって言うなんてどうかしてるわ!って。でもね…?怖くなったんだよ。この可愛い、可愛すぎる本来の私の姿が、キモイって言われたら?見知らぬ誰かから、キモイって言われてるかもしれない…。そう考えるだけで、私はこの姿を露わにできなかったんた…」
「…そうか、すまなかった、モフ耳などといじくりまわして」
「いや、いいの。実際私もこの記憶を無理やりどこかに飛ばして、魔王の威厳とか言ってたんだ。改めてこの問題に面と面を合わせて、向かっていくさ」
「いい心構えだな。でも安心するんだな」
「?」
「最低限、俺はお前のその姿、可愛いと思うぞ」
「!!!」
「ま、それだけだ。じゃあ、また明日だ。おやすみ、グレス」
「!?」
バタン
ドアが閉まる。妙に部屋に残るドアが閉じた音。それがドクンという大きな音によって打ち消される。
「か…可愛い…!?それに、グレスって…!あだ名…。あっ、ああっ!」
ボフッ
カァァァ
「あっ、なんでこんなに顔が熱くなって…!?」
え…?何あの男?可愛いって…、あっ、ああぁぁぁ…
ガチャッ!
「ふえぇぇえ!」
「ん?どうしたそんな素っ頓狂な声だして?」
「なんでもない!ってかノックくらいしろ!」
「ああ、悪い、そういえばもう1つの用事の事忘れていてな」
え!?何!?もしかして告白とか…って何考えてるの私!…でも用事って、こんな2人っきりの状況での用事なんて…。
「冷蔵庫から勝手に物使っていいか」
「…」
「無言、つまりは肯定。したがって許可って事だな。助かるよ」
「ちょい待てやゴラァイ!!」
これが恋?とか思っていた私が馬鹿馬鹿しくなり、背中を思いっきり突き飛ばしてやって、部屋に戻って鍵をかけ、その日はもう寝てしまった。
~次の日~
「おっ、おはよう。今日から変装は無しか?」
次の日の朝、ぐっすり眠れるかと思ったが、サラリーマンの体つきが染み付いてしまっており、朝っぱらの日の出ジャストみたいな時間に起きてしまっていた。そこから数時間後、グレスが起きてきた。
「おはよー。うん、ちょっとあの見た目と我って言うのが第三者の助言のせいで恥ずかしくなっちゃってさ?」
「なんで急に」
「スマキのせいだよ」
自称魔王って言うくらいだから、もっと素は荒々しいと思っていた。でも中身は案外、普通の少女のようで。
「…なんかちょっと緩いな?」
「まあ、初めてのヤツってのもあって警戒してただけだよ。でも昨日で分かった。スマキは悪いやつじゃないって」
「そうか」
「うん、だからさ、今日も寿司とやらを作ってよ!お願いだからぁ!」
あ、こいつ、寿司目的でかわいこぶってやがるぞ。お世辞で言ってるだけだわ。もう絶対そう。
「昨日言ったと思うが、米がもう無いんだ」
「いや、スマキの昨日のレベルアップの時に見えたよ?チラッとだけど、なんちゃら生成ってのがいくつか見えたんだ。その中にもしかしたらあるかもしれないよ?ほら、」
《鑑定》
サトウ スマキ
ジョブ:寿司職人
特殊ジョブスキル:
米創造
酢創造
ツケ場創造
「ほら!やっぱりあった!米も酢もある!これで幾らでも寿司が作れるな!」
「…いや待て、なんだこれ、ツケ場創造?まさか…?」
《ツケ場創造》
「やっぱり!ツケ場(寿司を作る場所)の創造に成功したぞ!」
これがスキルの使用か…!初めてだったが、結構感覚が掴みやすいものだな。
「ふむ、これでどこでも寿司が作れるスキルという訳なんだな…!ん?待てよ…?どこでも寿司が作れる?」
「ん?どうしたんだ、グレス?」
「いい事思いついたぞ、スマキ」
「なんだ?嫌な予感しかしないぞ?」
「信用無さすぎるだろ」
「そう思うなら普段の生活態度を改めろ」
「会ってまだ1日だよね!?…まあいい」
「で、なんだ?」
「すまきと私でこの世界を一緒に冒険してさ、色んな寿司を作る旅に出ないか?」
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