第30話

演劇部の顧問は、男性の若い物理教師と女性の若い国語教師だった。

二人は一緒に居ることは無く、だいたい交代で部活に参加していた。


部員は、2年生の女子3人だけだったので、私達が入部希望を申し出ると、派手に狂喜乱舞した。

昨年は3年生の女子が5人居たのだが、やはり2年生達の入部によってようやく演劇部存続が果たされたと言う。

毎年そんな感じで際どい綱渡りをしているのが演劇部だと説明してくれた。

2年生達は「これで、来年の新入生が一人でも入ってくれれば全学年が揃う」と興奮している。

顧問の先生方は二人とも淡々としたタイプだったが、私達の入部にとても喜んでくれた。


そういう事情で演劇部の先輩達は、貴重な後輩部員を逃すまいと私達を至れり尽くせリの過保護扱いだった。

お陰で私達はのびのびと活動出来た。


私は演劇部に入って本当に良かったと思った。

ちらちら体操部の活動を見ると、鬼のような先生にヒルのようにしつこい指導を受けていたからだ。

所謂体育会系の世界は、私には務まらないと納得した。

ピーターだって、怒りのスパーリングやキックが頻繁に続いていたらヘコタレてしまう。

私が演劇部で私らしく自由に振る舞っていることをピーターはとても喜んでいたし、ピーター自身も自由でいられることに満足している様子だった。


                        

私が小学校5年生の時、某放送局の少年少女合唱団が各小学校に団員募集をしたことが有った。

私は歌うことも大好きだったので、クラスの歌好きな女子男子と一緒に入団試験を受けた。

一緒に受けた女子は、クラス、いや学年、いやもしかしたら学校で一番歌うのが上手だったので、その子は受かるだろうと思っていたが、私自身が受かるか受からないかはあまり考えて居なかった。

ただ何となく『受けてみようか』的な気持ちだった。

ところが、課題曲と自由曲を歌う試験で、受かったのは私一人だった。

正直『受かってしまった』ような気分だった。

当然親にも話して居なかった。

でも、せっかく受かったのに入らない理由は無い。

両親に話すと、ママは喜んでくれたが、パパには


「必要経費は払ってやるが、自分で決めたことだから自分でやれ」


と、言われた。

つまり、合唱団の練習場所は自宅から可也離れていたし、練習時間は夜なので、大概の少年少女は親が送り迎えをするのだが、

我が家では親の送り迎えはしない!

行事にも関わらない!

ということだ。

パパはそういう人だった。

私が合唱団に入るに当たって、ママもパパから厳しく言い渡されたらしい。

合唱団に関しては本人に全てやらせろ! 関わるな!と。


流石にママは初めての練習日私を練習スタジオまで送ってくれたが、それを知ったパパに後で怒られたと言っていた。

2度目からは私一人で通うようになった。

そのくせパパは、合唱団がラジオやテレビに出演する時には何日か前からソワソワし始め、当日はガッチリ座って見たり聴いたりしていたらしい。


セーラー服だった中学の制服に関しても、セーラーはアメリカ海軍の象徴、そもそも制服自体軍隊の象徴、だとして最初はパパから制服着用にもダメ出しされた。

でも流石にそれはママも私もスルーした。

だけど私はパパの言うことも理解できたし一理あると思ったので、上下決まったライトブルー一色の体育着を色だけ自分好みの紺色と煉瓦色にして洗濯の度交換した。

これは、非常にはっきりとした体制に対する私の意思表示であったが、周囲にも好評でその後ファッションとして真似る者が続出した。


先生方も寧ろ好意的に見ている空気が有った。

無論そうでは無い空気も有ったのだろうが。

式典で『日の丸』を掲げ『君が代』を斉唱する際それを断固拒否する先生方が多い校風も有っただろう。


ヒルのように噛み付いたら離さないしつこさで、名前のヒデコからヒルコと呼ばれていた体育教師が、初体育の時間何か言いたげにジロリと一瞥しただけだった。


                       合唱団で私は、合唱団の指導者のお嬢さんユリと親しくなった。

学校は別だったが、学年が同じで入団試験も一緒に受けた同士という意識からだったと思う。


中学校の演劇部に入った頃、私と合唱団の友達ユリ他数人の子供が、ユリの父親経由で市の劇団による演劇公演の出演を依頼された。

演目は『夕鶴』。 村の子供役である。


             

            つづく


挿し絵です↓

https://kakuyomu.jp/users/mritw-u/news/16818622176145679017

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