第26話

アレルギー全般が、体験の無い人には理解されないことが多い。

大体がアレルギー『ぐらい』と軽く見られる。

アレルギーの酷い症状も想像力が有れば理解出来る筈だが、『アレルギー』と知った途端に『アレルギーか………アレルギーの無い人なんか居ないよ』で済まされるのがオチだ。


そういう問題では無い。

同じアレルギーでも、症状の表れ方は千差万別。

気にせずに済む程度から死に至る深刻な症状まで有る。


それに加え、最近想像力自体の欠如も強く感じる。

想像する前に与えられてしまうようになってしまったからなのか。


また、知識の無い人の独断の恐さも感じさせられる。

知識の無い人ほど知ったかぶりをしたがる危険だ。


喘息は命に関わる。

現代でも喘息による死亡者は多い。

特に咳の出ない喘息は危険だ。

咳の出る喘息は、咳をすることで多少なりとも酸素を供給出来る。

しかし、咳の出ない喘息の方は咳が出る隙間も無いということで、酸素を全く供給出来ない、つまり息が出来なくなるからだ。


派手に咳の出る喘息の方が一見重症に見られがちだが、実際は完全に息が出来なくなる咳の出ない喘息の方が重症で危険率も高い。


                       


ある時私は咳の出ない喘息が治まらなくなり、本当は数時間置きにしか使えない吸入を、良く無いことと知りながら15分置き位に使ってしまう状態におちいっていた。

吸入をした直後は多少楽になるのだが、15分位経つと息が出来ない状態が繰り返していたのだ。


たまたま其処へ訪ねて来た町の自治会長さんが、吸入をした直後の私を見て


「軽い軽い!」


と言ってのけた。

ママが、今吸入したばかりで落ち着いているが、15分位でまた息が出来なくなると説明しても自治会長さんはニヤニヤしている。


そして再び息が出来ない状態になった時も


「静かじゃない! 大丈夫大丈夫!」


と言って取り合わない。


終いには


「お母さんもお嬢ちゃんも心配し過ぎ!」


と笑う始末。


私は自治会長さんの無知で無神経な言動に腹が立ち、吸入をしても治まらなくなった。


私は朦朧としてきた。

まだニヤニヤしている自治会長さんを無視してママは救急車を呼んだ。

救急車が来る迄の間に私は気を失ったらしい。

それで初めて自治会長さんにも事の重大さが理解できたようだと後々ママが言っていた。


この時ピーターは、盛んに電話のボタンを119と順番に示してママに合図していたが、ママが気づく筈も無い。

ようやくママ自ら119番に電話した後は、自治会長さんの全身にピーターの足蹴りや激しいノックが炸裂したことは言うまでも無い。


でも自治会長さんは一言


「この家は虫が多いわね」


と呟いただけだった。

ピーター虫のことだ。


自治会長さんが言った『静か』な状態とは、咳をしていないというだけで、真面目に耳を澄ませば僅かな隙間から息が漏れるヒューヒューという音が聞こえていた筈だし、肩でする小刻みな息遣いにも気づいた筈た。


世の中には、この自治会長さんみたいな人がけっこう多い。

こういう人が無知であることは仕方が無い。

ただ、知ったかぶりをするのは非常に危険であり、罪であると思う。

この時、もし私が自治会長さんの言う通り大丈夫だと放って置かれ死亡したら、自治会長さんは殺人を犯したも同然だ。


                

             つづく


挿し絵です↓

https://kakuyomu.jp/users/mritw-u/news/16818622170794629938


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