25. 狙いを探るために

「――そうそう、こんな物もあります。

 これは拳銃という名前ですが、こちらも人を殺める力がありました」


 今度は私の手よりも少し大きいくらいの物が取り出され、机の上に置かれた。

 これは売り出されたら、護身具として人気が出そうな気がする。


「これは明日からファンタム商会で売り出されるようです」


 私達が売っている魔道具も、元は魔物と戦うためのものだけれど、悪意を持って使えば人を簡単に傷付けられる危険な道具に変わってしまう。

 もっと言えば、魔道具に私が暗殺される可能性だってあると思われているはずだ。


 銃なんていう大掛かりな兵器を使うより、小さくて目立たない上に証拠も残らないのだから、使わない理由がない。

 けれど、これは料理に使う包丁や物を切るときに便利なハサミにも言えること。包丁だってその気になれば人を殺める道具になってしまう。


 魔法を用いた事件も珍しくはないから、気にし過ぎない方が良いと思うのよね。


 この可能性も考えて、魔道具は冒険者を中心に売っていたのだけど、有名になった今なら悪い考えを持っている人の手に渡っていてもおかしくはない。


「拳銃も魔道具も、本質は似たようなものですわ。なので、対抗手段で対策する以外の方法は無いと思いますの」


「ええ、それは痛いほど実感しました。以前から貴族を襲う暴漢は居ましたし、毒矢で暗殺された方も多くいます。魔法での暗殺も今に始まったことではありません。

 それらを小さな魔道具で簡単に防げるようになった今なら、大した脅威ではないでしょう。

 しかし、この銃は魔道具よりも容易に遠くの人物を暗殺することが出来ます。窓の外から狙われる可能性を考えれば、夜であっても防御魔法を切らさない方が良いかと」


 ユリウス様の言う通り、魔道具では遠くの魔物に狙いを定めることは難しい。

 魔法自らが魔物に向かう魔道具も作ってはいるものの、あれは人が相手だと発動しないから、遠距離では銃の方が脅威になりそうだ。


 とはいえ、姿が見えなければ狙うことは出来ない。夜はしっかりカーテンを閉めるように徹底しようと思った。

 それだけでは心許ないから、私達が使うための高性能な魔導具も作った方が良さそうね……。


「助言、ありがとうございます。常に防御魔法を使うようにしますわ」


「これで安心して眠れます。魔物の動きも不穏なので、明日から動き出しましょう」


「分かりました。明日はデストリア邸にお伺い致します。

 本日はありがとうございました」


 そう口にし、頭を下げる私。

 ユリウス様もまた、お礼の言葉を口にしてから頭を下げる。


 取引のお話はこれで終わり。私とルイスはユリウス様を外までお見送りした。


「……もう時間がないから、急いで準備しましょう」


「ああ」


 ルイスが頷いた時。パンッという破裂音が聞こえたと思ったら、耳に何かが当たるのを感じた。

 そして金属が地面に落ちる音も聞こえる。


「中に入れ!」


 状況を先に理解したらしいルイスに手を引かれ、お店の中に入る私。

 防御魔法を使っていたお陰で痛みは無かったものの、狙われていることを知らなかったらと思うと、背筋が凍り付きそうなほど恐ろしい。


「怪我は無いか?」


「ええ。耳に何か当たったけど、痛みは無いわ」


「良かった。狙われていたのは本当だったのか……。

 とりあえず、犯人を捕まえてくる」


 深刻そうな表情を浮かべ、そう呟くルイス。彼はそのまま店を飛び出すと、風魔法を使って空へと飛んでいく。

 私は命を狙われているから、大人しくお店の中で準備をしていた方が良さそうだ。


 そう考え、予定通りに商品を二階から一階へと運ぶ作業を始める。

 魔道具の一つ一つは小さくて軽いものの、運ぶ量が膨大で、階段を何度も往復することになった。


「ただいま。捕まえてきたよ」


「本当に捕まえられたのね。何か言っていた?」


「いや、言う前に気絶させた」


ルイスの左手には大きな銃が、右手には力の抜けた男性がぶら下がっていて、生きていても意識は無かった。

 でも、犯人を捕らえられたから、次の暗殺者が送り込まれるまでは少し時間が出来たと思う。


「流石ね。その人はどうしようかしら?」


「とりあえず、余ってる鉄で牢を作るよ。」


「それなら、私はお店の番をするわね」


「セシルは客に近付かない方がいい。店はアルベルト達に任せよう」


「……分かったわ」


 お客さん達の笑顔を見るのが楽しみだったから、お店の番が出来ないのは残念だわ。

 でも、ルイスの考えも分かるから、少し迷いながらも彼の言葉に頷く。


 そんな時。コニーとヴィンセントが本と食材を抱えてお店の中に戻ってきた。

 食材は今日の夕食用なのだけど、本の中身はまだ分からない。


 二人ともいい笑顔を浮かべているから、きっと私達にとって有意義な内容なのだと思う。

 けれども、コニー達はルイスの手にぶら下がっている暗殺者の姿を認めると、一瞬だけ目を見開く。


「その人……誰?」


「セシルを銃で撃った暗殺者だよ。これから牢を作るから、二人で見張りをお願いしたい」


「拷問……尋問はしても良いの?」


「殺さない程度ならご自由に」


 そう口にするルイスは、満面の笑顔を浮かべている。

 彼は私が想像していたよりもいい性格をしているらしい。


 私も拷問することは考えていたけれど、あれは見ている方も辛くなるから乗り気ではないのよね……。

 でも、私の視界に入らないのなら、ファンタム公爵家の意図を知るためにも拷問は必要だと思う。


「殺さない程度、か。とりあえず、しっかり全部吐かせるよ」


「分かった」


 だからルイス達を止めるつもりは無かった。

 残酷だと思う人もいるかもしれないけれど、相手は私の命を狙っていたのだから、この世から消すことだっていとわないわ。

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