18. この国でずっと

「いらっしゃいませ!」


 知り合い以外で最初のお客さんだから、少し緊張しつつも頭を下げる私。

 横目でルイスの方を見ると、彼も私と同じようにしていた。


「魔道具が売っていると聞いて来たんですけど、ここで合ってますか?」


 私達が顔を上げると、お客さんがそう口にする。

 コニー達の宣伝の効果が無事に出てきたみたいで、お客さん二人はお店の中を興味深そうに見回していた。


「ええ、合っていますわ。魔法の希望はありますか?」


「防御魔法があれば、お願いします」


「属性はいかがなさいますか?」


「水属性でお願いします」


「俺は土で」


 私が問いかけると、そんな言葉が返ってきた。

 ルイスに目配せすると、彼は受付の後ろの棚から商品を取り出して、カウンターの上に並べた。


「こちらが水属性の防御魔法で、こちらが土属性の防御魔法になります」


「見た目は同じなんですね」


「分かりやすくするためのステッカーを付けることも出来ますわ」


「それもお願いします」


 私達が作っている魔道具はどれも見た目は全く同じだ。

 今の私は、魔道具から感じる魔力の気配でどの魔法なのか分かるようになったものの、慣れるまでは見た目でしか判断出来ないのよね。


 だから、魔法の種類を書いたステッカーを付けられるように作ってある。


「かしこまりました。取り付けるので、少しお待ちいただけますか?」


「お願いします」


 お客さんに断りを入れてから、私達は作業にとりかかる。

 ステッカーは接着剤で貼り付けるだけなのだけど、ズレないように慎重になると時間がかかってしまう。


 位置を合わせて無事に貼り付け終えたら、水魔法を使って接着剤の水分を抜いていく。

 本来は固まるまで一日くらいかかるものが、こうすれば数秒で済む。


「お待たせしました。このような形でよろしかったでしょうか?」


「大丈夫です。一族性の防御魔法二つだから、金貨二十枚か」


 お客さんは魔道具を注視してから顔を上げると、そう口にした。

 受付の上には料金表を置いてあるから、それを見たらしい。


 ちなみに、初級魔法なら防御魔法と攻撃魔法がそれぞれ金貨十枚だ。


「この全属性混合っていうのは何ですか?」


「全ての属性の防御魔法を起動する魔道具のことです。試してみますか?」


 この防御魔法は私が丸二日かけて作ったもので、どんな攻撃にも魔道具一つで対応できるのよね。

 私は詠唱しなくても元々使える魔法だけれど、魔道具にするために魔力の消費を抑える改変をしていたから、時間がかかってしまった。


 でも、そのお陰で属性一つの防御魔法の魔道具と魔力の消費量は変わらない。

 魔法陣が複雑で作るのが大変だから値段は高めにしているから、売るのは難しいと思う。


 でも、お金持ちの耳に入るかもしれないから、試してみないか問いかけてみた。


「金貨八十枚は流石に買えないですよ」


「買わなくても大丈夫です!」


「そういうことなら……」


 お客さんの一人に魔道具を手渡すと、彼は慎重に魔法を起動した。

 そして彼は仲間に声をかけ、何回か殴られたり蹴られたりする。


「すごい……魔法も試していいですか?」


「ええ、大丈夫ですよ」


 お客さんが攻撃魔法を試したくなることは想定済みだから、私は防御魔法を起動してお客さん二人を包み込んだ。

 これでお店や魔道具が壊れることはないから、安心して試してもらえる。


「……すごいな。本当に全部防げてる」


「これがあれば、どんな魔物相手でも怖くないな」


「あくまでも魔法なので、過信はしないでくださいね。強い魔物の攻撃を受けても無事で済む保証は出来ませんの」


 お客さん達は初めて見る魔道具を信頼してくれている様子だけど、魔道具の中身は魔法だから、完璧ではないのよね。

 ある程度は防げても強すぎる攻撃は防ぎきれない。だから、念のために忠告しておく。


「流石にそうですよね。でも、この魔道具は本当にすごいです。お金が貯まったらまた来ます!」


「ありがとうございます!」


 お客さん達は試していた魔道具を私に差し出すと、買てくれた魔道具を大切そうに抱えて踵を返した。

 すると、今度は別のお客さんが姿を見せる。

 今回は一気に十人以上。接客に慣れていない私達は、予想外の人数に一瞬だけ言葉を失った。


「「いらっしゃいませ!」」


 それからは、今まで暇だったのが噓のように忙しくなった。

 でも、聖女だった頃の忙しさよりはずっと楽で、魔道具を売るのは楽しい。


 冒険者達は笑顔でお礼を言ってくれるから、売っている側の私も幸せな気持ちになれる。

 ノワール王国では大怪我を治してもお礼なんて言われなかったけれど、この国ではこれが当たり前みたい。


 だから、ずっとこの国で暮らしたいと思えた。


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