第16話 目標
僕は変わらず、冒険者部の部室内にいた。
水の入ったバケツをいくつも持たされて直立姿勢のまま聳え立つ。
それが今の僕と不治野の恰好だ。
つまり先ほどの騒ぎに対する罰を受けている最中ということである。
「待てよ? あの男、どっかで見たことあるような気がする……?」
と僕はひそひそ声で疑念を零す。
視線の先には、教室後方で先ほど登場した大男が、未だ涙を流す真白を慰めている光景があった。
「奴は二年一組担任の
不治野が答えた。
「ああ、そうか。矢那馬先生だ……本当だ」
「いつもはあの長髪で目元隠してやがるから、分からなかっただけだろうぜ」
「なるほどね、確かにあんなに体格がデカいのに髪型だけで印象がまるで違う」
「もっとも、節穴でもなければ、あの肉体を見た瞬間に、普通は気づくがな? 節穴野郎が。ったく、にしても矢那馬の野郎がなんでこんな場所にきやがんだよ?」
やがて矢那馬先生は、真白と湖身、両名を連れて教室前方へとやってきた。
「俺の名前は
その宣言に僕と不治野は驚いた。
矢那馬先生は黒板へと向かった。
「まずお前たちには今年一年間の目標を設定してもらう」
「目標だあ?」
不治野が訝しんだ。
「今年の最後に冒険者部の部員全員で力を合わせて攻略するべきダンジョンを決めろと言っている。ダンジョンの攻略とはすなわちダンジョン内に度々出現する支配者格魔物を討伐することだ。その事は分かっているな?」
「んなこと知ってらあ、当然だろうが!?」
「なら早く全員で話し合って答えを提出しろ。お前がリーダーなんだろう?」
「言われなくても! お前らこっちへ来い!」
と不治野は僕ら部員を教室後方へ集めた。
「どうするお前ら?」
意外にも真白が真っ先に声を上げた。
「わたし、レベル七のダンジョンを攻略したいです!」
泣き腫らし充血した彼女の月のように黄色い瞳は、けれど強い意志を秘めている。
「よく言った、真白! よし、お前ら戻るぞ!」
喜々とした表情を浮かべた不治野とその後を追う意気揚々とした足取りの真白が黒板前まで戻って行った。
僕と湖身は顔を見合わせた後、彼らの背中を追いかけた。
「俺たちの今年の目標はレベル七ダンジョンの攻略だあ!」
不治野の力強い宣言に、矢那馬先生は怒鳴り声を返した。
「お前たちはふざけているのか!」
「ふざけてないです! わたし、本気なんです!」
また意外にも真白が声を張り上げる。
矢那馬先生は黒板を拳で叩いた。
「レベル七のダンジョンはアマチュア冒険者にとっての最高難易度ダンジョンのことだ! 本当にその意味が分かって言っているんだろうな!?」
「わたし、プロになりたいんです!」
「黙れ!」
矢那馬先生は僕らに背を向けた。
どうやら部室から出て行くようだ。
「来週まで時間をやる! それまでの間に現実的な目標を全員で話し合い、もう一度決め直せ! いいな!」
そう吐き捨てた矢那馬先生の姿が見えなくなった後も教室内は静まり返っていた。
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