15 中央貴族邸潜入作戦 その3
「勉強疲れたな~。ここらへんでひと抜きするかあ…。」
なんていうこと、ありますよね?
何を隠そう。俺たちはそのシーンを偶然目撃してしまったわけです。
「なあエル、隣の部屋って、誰が使ってるの…?」
「隣?ああ、お兄ちゃんだよ。2番目の方の。今日はお家にいると思うけど、どうしたの?」
「いや、なんでもない。」
エルの証言で俺は確信を得た。
あれは確実に12歳男子の自慰行為だった。
ただ正直なところ、興奮よりも心配の方が勝っていた。
俺にもわかる。いい年頃の男子が一番見られたくないものが、自室でのひとときなのだ。
「ノックしろって言っただろ!!」
そう言い残して家族に行為を目撃されるケースは前世でもいくつか聞いたことがある。
今回は明らかに年下の、しかもどこからきたのか知らない子供に見られるということには、誰も耐えられないだろう。
やってしまった、、、と反省しつつ、「お昼になるまでやろう」と、エルが持ってきたボードゲームで時間を潰していると、さっきまでほぼ固まっていたリュイが口を開いた。
「ねえ、隣の部屋のお兄さん、はだk」
俺は急いでリュイの口を手で塞いだ。
「え?どうしたの?隣が何?」
よしっ。重要なところは聞こえていない。
「い、いや...隣の部屋のお兄さんにも、いつか会ってみたいな~なんて、、あははは…」
「そうだねえ。学校でも会えるし、いつか紹介するよ!」
爽やかな笑顔を見せて、エルは駒を進めた。
リュイはまたもや、どうして口を塞がれたのかわかっておらず、頭に「?」が浮かんでいるような顔になった。
ーーー
お昼になり、エルに連れられて俺たちは1階の大広間に案内された。
「うわあ…」
俺たちは開いた口が塞がらない。
部屋の中にはみたことのないほど大きな机に真っ白いテーブルクロスがかかっていて、ところどころに花瓶が置かれている。
天井には煌びやかなシャンデリアが吊るされていて明るい。そして机の周りには使用人さんが数人ほど立っている。
「座って座って~!!」
机の端っこまで行くと、エルがテーブルの正面、そしてそれを俺とリュイが挟み込むように向かい合わせに座った。
木造の椅子にまで彫刻が施されていてとにかく高そうだった。
俺たち、ものすごく場違いじゃないのか… ?
「本日は、シエル様のご友人様が来られるということで、シェフが腕によりをかけました。皆様のお口に合えばよろしいのですが。」
「じゃあ早速お願い」
「承知いたしました。」
一人の使用人さんがエルに言われ、部屋を後にした。
「今日はご飯の部屋を貸切にしてもらったんだ~!」
「大丈夫なの…?なんかものすごい雰囲気だけど…。」
リュイが苦笑いしながら聞く。
「この前僕の家の料理食べさせてあげるって言ったでしょ~?約束は守らなきゃね!」
こっちをみながらウィンクをするエルは少し眩しかった。
少しすると、使用人さんが数人がかりで、俺たちのものと思われるランチを運んできた。
料理はどれも美味しそうで、いかにも高級フレンチレストランで出てきそうな代物ばかりだった。
エルは毎日こんなものを食べているのか…。
「いただきます…」
手を合わせ、まずは茶色いソースのかかった肉料理を口に運ぶ。
な、なんだこれ…。
お肉は口の中でとろけるほどに柔らかく、さらに中に閉じ込められていた肉汁が、ソースと絡み合って味覚をダイレクトに刺激してくる。
次に焼きたてのパンを口の中に運ぶと、こちらも普段食べているものとは大違い。一口かじるだけで小麦の香りが口いっぱいに広がる。
「う、うますぎる…」
「エルくん…こんなに美味しいの食べたことないよ…」
「よかった~!もっと食べて食べて!!」
素材から味付けまで、まさに完璧の一言だった。
前世でもこんなに美味しいものは食べたことがない。
まさにあっぱれ。そしてエルと友達になる運命に導いてくれた神様に感謝。
俺たちはあっという間に料理を全て平らげ、食後にデザートまでもらった後、お腹いっぱいになってエルの部屋へと戻った。
「はあ~…食った食った…」
「どう?うちの料理は。お口にあったかな?」
「めっちゃくちゃ美味しかったよ!」
「あんなにうまい料理、初めて食べた…」
「そう言ってもらえて嬉しいよ!シェフのおじさんにも伝えとくね。」
「エルくんのお家、やっぱりすごいよ!僕たちのためにわざわざありがとね…!」
「僕も友達と一緒に家でご飯を食べるのなんて初めてだったから、こっちこそきてくれた二人に感謝だよ!」
「で、この後はどうするんだ?さっきのゲームの続きとか?」
「そうだなあ…。」
エルは部屋の時計を一目見る。
「わ、もうこんな時間…。ご、ごめんね二人とも、今日この後も実は、家庭教師があって…。」
「えっ、今日日曜日だよね…?」
「うん、、毎日あるから…」
「毎日!?」
俺たちは耳を疑った。
そういえばこいつ、学校の後にも家庭教師があったはずじゃ…。
「毎日って、そんなんじゃ体壊しちゃうだろ?」
「大丈夫だよ!一応、、、跡取りの候補者だし。これぐらいはできないと…あはは」
「そうか…。じゃあ俺たちは邪魔になるし、ここら辺でお邪魔するな」
「うん、ごめんね…」
エルは少し寂しそうな表情を浮かべて俺たちに謝った。
忘れ物がないかチェックをしたら、荷物を持って三人で一階の玄関まで降りる。
「じゃあまた明日、学校でね!」
「うん!また明日~!……」
二人してエルに向かって手を振りながら、俺たちは広い庭園を突っ切り、中央貴族クレモンティーヌ邸を無事に脱出した。
なんというか、今日は不思議な体験をしたような気がする。
「明日も学校だねえ…」
「宿題終わってるか?ほら、国語の。」
「あっ、やってない!」
「ほら忘れてた。帰ったら手伝ってやるから、さっさと終わらすぞ。」
「えへへ…リオンくんにはいつも助かってるよ…」
今日のお出かけが無事に終わって、俺は内心ほっとしていた。
特に変なトラブルも起こしてないし、エルとの関係も縮まるいい機会だったと思う。
お兄さんには、、、いづれ謝罪をしておこう。
しかし俺の中にはやはり何かが引っかかっていた。
最後の別れ際、エルは笑っていた。
けど、あれは無理やり笑っていたとしか思えない。
勉強からスポーツまで、なんでもできるエルのことだから、何もないと信じたい、、、。
けど、毎日急いで帰ったり、話しかけてもぼーっとしていたり。
おかしいところはいっぱいあったじゃないか。それに加えてさっきの別れ際。
何かがひっかかる。こういう優等生には、必ず何か裏があるっていう寸法だ。
ここ数日、エルには特に気をつけて接しようと思う。
そう思っていた矢先だった。
その次の週の金曜日。エルはいつも通り先に帰って行った。
「今週も終わりだねぇ…ふわぁ…。」
机に突っ伏してあくびをするリュイを横目に、俺はカバンの中に荷物を片付けていた。
「ほら、帰るぞ~」
「ふわぁい」
初等部の校舎を出ると、俺たちはそのまま学校の出口に向かって歩き出した。
ちょうどその出口に差し掛かった頃、リュイが立ち止まった。
「うおう…。どうしたんだ急に」
「ねえ、あれ、エルくんだよね…?」
リュイが指差した先にいたのは、塀の影になっていた部分に座り込み、丸まっていた生徒。
俺たちと同じ初等部の生徒のようで、影の中でもよく見えるオレンジ色の髪の毛を生やしていた。
それに当てはまる生徒は一人しかいない。
そう、エルだ。
続く
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