空の色が見えるように
復活の呪文
愛する妻へ
愛する妻へ
ロンドン行きの便に乗るのは、これで何度目だろう。窓の外には変わらぬ雲海が広がり、機体は静かに空を滑る。君と出会った日も、同じような空だった。
父は言っていた。「空の上には天使様がいるんだ」と。半信半疑だった私が、その言葉を信じたのは、パイロットとして初めて搭乗したロンドン行きの直行便だった。
CA用の空色の制服に包まれた君の微笑みは、空が形を成したようで、私はその日から地上に降りる理由を失った。
君と過ごした日々は、どんな空よりも晴れやかだった。でも、君が逝ってから数十年経った今、記憶が霞み始めている。朝起きると、君の名前が喉元で止まる。君の声も、笑顔も、少しずつ遠ざかり、記憶の空に雲がかかっているようだ。
それが怖くて、こうして何度も君と出会った空を飛び続けている。
雲は段々と濃くなってきている。だから、君の顔が完全に思い出せなくなる前に、この手紙を書いておこうと思う。緊張する私に君がコーヒーを差し出してくれた瞬間、確かに思ったんだ。
「父さん、天使様は本当にいたよ」って。
もうすぐ着陸のアナウンスが流れる。でも、私の心は君と出会ったあの高度のままだ。
君が待つ空色の世界で、また会おう。
空の色が見えるように 復活の呪文 @hukkatsunojumon
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