■新学期が始まる

 短い冬休みが明け、三学期が始まった。三年生は自宅学習が始まっているから、登校はいつもより疎らだ。


 自転車を置いて、わたしは暖を求めるように昇降口へ急ぐ。


 下駄箱を開けると、大きめの紙袋が入っていた。中身は九州限定のインスタントラーメン。


『めっちゃ美味しかったから家族で食べて』


 秋保さんの字だ。福岡のお土産をちゃんと買ってきてくれたらしい。帰ったらお礼のメッセージを送っておこう。


 ラーメンはこっそりリュックに詰め込み、久しぶりに上履きに足を突っ込む。


 うちの学校はエアコンがあるけど、教室全体を暖めるには心もとない。

 特に体育館は極寒。


「寒いね〜」


 カイロを手にしたくるみが、そっと後ろを向きながら言う。今は始業式の最中だ。


 ブレザーの下には厚めのカーディガンを着ているが、外にいるように寒い。わたしもカイロを持ってくればよかった。


「冬休み、どっか行った?」

「ばあちゃんの家と、あとは初詣かな」

「へー初詣行ったんだ。陽ってそうゆうの面倒くさがりそうなのに」

「受験生になるしね。そうゆうくるみはどっか行ったの?」


 さすがに年末年始は部活も休みだろう。


「私はね、ディ●ニーランド行ってきたよ」

「めっちゃ満喫してるじゃん」


 誰と行ったんだろう。部活の人とかな。


「陽のことだから宿題はちゃんとやったよね?」

「それはまぁ……」

「あとで英語のプリント見せて!」

「ちゃんと自分でやりなよ」

「やったって。答え合わせしたいの」


 大丈夫かな。くるみ。英語の成績が心配だけど……。


「陽は予備校行くことにしたんでしょ」

「うん。くるみは?」

「とりあえず週一で塾入れられたー」


 先輩たちが受験を迎える中、わたしたちも受験モードに飲み込まれていく。


「陽ってそこそこ頭いいんだから、推薦狙えばいいのに」


 国立に推薦でいけるほどの頭はない。


「受験やだなぁ」

「だね」

「それに陽と同じクラスでいられるのも後三ヶ月だけだしさ」


 くるみは理系に進むらしいから、わたしと同じクラスになることはない。一年生の時から仲良くしてきたから、結構寂しい。


 背筋を伸ばして列の前方を覗く。茶髪の頭が見えた。秋保さんだ。

 秋保さんとは同じクラスになる可能性がある。


 とりあえずわたしは友達というか知り合いすらも少ないから、クラス替えが不安でいっぱい。今から憂鬱になる。


 くるみと冬休みのことを話しているうちに始業式は終わった。

 わたしとくるみは肩を並べて体育館の階段を下る。


 ちょうど近くに秋保さんと佐藤さんがいるらしい。二人の会話が聞こえてくる。

 喋っているのはほとんど佐藤さんで、秋保さんは相槌を打ってばかりだ。


 わたしと秋保さんが友達だったら、ここで振り返ってお土産のお礼を言えるのに。


「アキ、ずいぶん長く実家帰ってたよね」

「まぁね。遠方だし」

「せっかく冬休みはアキと遊ぼうと思ってたのに」

「でも彼氏と遊んだんでしょ」


 そういえば秋保さんは佐藤さんの約束を断って、わたしと会ってくれたんだよね。ちょっと優越感を覚える。


「私も冬休み陽と遊びたかったなー」


 同じく後ろの会話を聞いていたくるみがわたしの肩を突いてくる。


「家の用事で忙しかったんだよ」

「偉いねぇ、陽は」


 確かに最近くるみと遊んでない。わたしも土日に予定が入り気味だし、なによりくるみの部活が忙しい。


 受験が本格的になる前にどこか遊びに行きたいな。


 教室に戻るなり英語のプリントをせがむくるみにプリントを渡す。


「今写すの?」

「この後部活だからホームルーム中にやっちゃう」


 今日は授業がなく、午前中で学校も終わる。


 家族で食べてと言っても五食入りだったし、一袋先に食べてもいいかな。

 そうだ、作ったラーメンを写真に撮って一緒に送ろう。

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