デュアル・デュエルの基本ルール(武器・防具編)

 講義用に学生に配布されてる携帯用情映魔器タブレットには、講師からメディアを配信することが可能だ。そこに注目するよう声を掛けてから、陽駆先輩は武器と防具の説明に移る。


「デュアエルで用いる武器種には両手用と片手用があって、片手用を選べば空いた手に別の武器または盾を装備できます。

 両手用は本太刀ほんだち・大太刀・直槍すぐやり・薙刀・斧槍おのやりの5種類。片手用は小太刀・手槍・手斧の3種類。さらに盾が小・中・大・へきの4種。だから片手用は組み合わせが豊富でね、私みたいに小太刀二刀流で手数重視にする奴から、大きな盾を選んでガードに振る奴もいる。

 そして武器の話と同時に、擬魔刃の構造の話をするよ」


 タブレットに示されたのは、8種類の擬魔刃の模式図。


「各武器種のパーツに対して、2種類の区分があります。

 まずは『擬刃ぎじん部』と『非刃ひじん部』、つまり刀身とそれ以外なので見た目通り。

 このうち擬刃部のうち、攻撃に用いる部分を『剛利ごうり部』、それ以外と非刃部を含めて『脆弱部』と呼びます。各武器の使い方と結びつければすぐ分かるよね」

 例えば太刀系や薙刀のような片刃の刀身であれば、刃が付いている部分が剛利部、腹や峰は脆弱部になる。槍の穂であれば腹が、斧刃であれば腹や斧筋が脆弱部だ。

「ここで覚えるべきは2つ。有効打突となるのは剛利部での打突であることと、そして擬刃部に身体で触れると反則となることだ。気をつけてほしいのは、擬刃部のうち脆弱部であってもダメだし、自分の武器であってもダメってことだ。だから例えば」


 漣吾が持ち替えた大太刀へ、仁武は本太刀を打ち込む。そのまま押し切るべく、左手で刀の峰を押し込んだ。

「――このとき、刀身に触れている青方が反則負けになる。純体の剣術だとみられる形だけどデュアエルでは禁じている、なぜか。

 それは、デュアエルは魔刃戦闘をベースにしているからです。活性状態にある魔刃は剛利部に絶大な破壊力をもたらすけど、その副作用で刀身は発熱している。それを触ったら持ち主の手が焼け焦げるし、実際にそうした事故は起きている。この状態をスポーツにも反映しているからね」

 元魔刃士である父の知人にも被害者がいる事案だ、仁武も肝に銘じている。


「そして魔刃戦闘をベースにしている以上、武器と盾の効果を発揮させるためには魔力を流して魔術的活性状態にする必要がある。ただ振り回したり受け止めるだけじゃダメだ。

 非活性状態にある場合、剛利部も盾も脆弱部として扱われる。だから常に魔力を流すのが普通だし、そうでなくてもインパクトの瞬間には魔力を流さなきゃいけない。正確に言うと専用の接触式魔術を発動させてるんだけど、今は魔力を流すって理解でOKです」

 ちなみに仁義デュアルは普通じゃない後者を選んでいる。仁武の魔素含量が少ないこと、義芭の魔術精度が卓越しているためだ。


「勿論、魔刃といえどもちょんと触っただけで硬い装甲を斬れたりはしない、物理的な勢いも刃の角度も重要です。つまりデュアエルにおける有効打突ってのは、魔活状態にある擬魔刃の剛利部を、充分なスピードかつ適切な角度で接触させることで成り立ちます。心技体魔の総合武術って呼ばれるのはこういう理由だね」

 これだけ実戦的なデザインだからこそ、魔術高専は――つまりバックにいる行政は、ハード面で充実した支援を行っている。高価な競技用具をふんだんに使えるのもこのためだ。


「ちなみに、この有効打突の判定はアーマーが行っています。そもそもこの魔術模擬戦闘用防具システムMACPASは耐衝撃作用も各種センサー類も搭載した優れ物なんだ。だからといって勝手に使わないように、担当職員の監督はマストだからね」

 こうしたバックアップのおかげもあり、競技の激しさの割に負傷者は少ない。ただ、職員の許可を取らずに使うと厳重処分が下される。


「そして最後に反則について。

 まずはさっきも言った『触刃しょくじん』、刀身への接触だね。これはラウンド敗北。

 そして試合自体が失格になるのは危険部位――アーマーでも防御しきれない首元や股間への攻撃。実戦と相反するけど、安全のためだから仕方ない。

 加えて、許可されていない魔術の使用全般。デュアエルでは基本的に、擬魔刃での打ち合いとそれを補助する魔術のみが許可されていて、それ以外は使用禁止だっていうセーフリスト方式を取っている。自チームの刃闘士とその武器に作用する力学系魔術のみ、と思ってほしい。だから繋援士が攻撃することもされることもないんだ」

 実際の魔刃運用を想定しているとはいえ、なんでもありの戦闘ではない。あくまでスポーツ、である。


「後は……一応言っておくけど、刃闘士・繋援士ともに男女混合のオープン戦だし、性別や学年によるハンデは特に設けてないです。体格だけじゃなく魔術の素養も絡むからね。色々意見はあるだろうけど、実際に刃闘士やってる私は納得してプレイしてます」


 男子相手に打ち合ってそれなりの勝率を叩き出している陽駆先輩が言うと、さすがの説得力だ。


「さあ、ルール説明も長くなったし、ここらで実戦を見せなきゃね。

 さっきのデモとは違う、ガチの真剣勝負だ。漣乃レンノデュアル、仁義ジンギデュアル、準備よろしく」


「はい!」

 お辞儀をしつつ、仁武は意識を切り替える。


 後輩たちの前だ。生半可な試合は見せられない、負ける姿は見せたくない。

 

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