風船少女/上埜深結
憧れを吸い込んで膨らみながら舞い上がっては、現実にぶつかってバラバラと破れ散っていく。
破れる痛みを知っても、吸い込む衝動を抑えきれない。
深結は愛らしさと利口さで評判な女の子だった、みんな自分のことが大好きだった――というのは、幼児らしい思い込みだったけれど。
保育園のお遊戯会では、歌も踊りも誰より早く覚えられた。周りの子よりも上手い、自信が芽生えた。
男の子はみんな深結にそばにいたがった。周りの子よりもモテる、確信が固まった。
両親は人を救う衛生魔技士だった。周りの大人たちはみんな両親を尊敬している、その視線が誇らしかった。
そのひとり娘である自分にも魔術の才能があると、早くに分かった。周りの子たちとは違う、その証ができた。
どこにいっても誰からも、愛され尊敬される両親と自分。全てが特別なまま輝く人生なんだと、疑っていなかった。
特撮番組の
故郷が怪物たちに踏みにじられる日までは。
*
8歳の冬、
初めて訪れた新都に「帰りたくない!」とはしゃいだ、その願いが残酷な形で現実になっていた。ただの地震、よくある
いつ帰れるかも分からない、地元のみんなが無事かも分からない。何より両親は、衛生魔技士として災害対応の最前線に立たなくてはならないのだ。まだ無事らしいと連絡は受けても、いつ危険に巻き込まれるか分からない。
ようやく初動対応が一段落した頃、抗いようのない事実が深結に突きつけられていた。
壊滅した故郷に児童たちは戻れず、他県に分散して避難生活を送ること。
両親は任務中に負傷し、介護なしには生活できなくなったこと。頼れる親族もいなかったため、新都の集合介護施設にしか行き場がないこと。
つまり深結は、両親とも離ればなれで、全く知らない信坂県で生きていくことになったのだ。
これまでとは打って変わって、塞ぎこみ無気力な生活を送る深結を。同じ養護施設に避難した
四歳上の
同い年の
そして九歳も上の
「ミユがあんなに頑張っても、全部壊されちゃったもん」
「今のミユが何やっても、誰のことも助けられないもん」
そう嘆く深結に、研護お兄ちゃんは道を示してくれた。
「深結ちゃんが頑張ってくれたら、俺も大人たちも頑張れるんだ」
「それが怖いなら、応援してほしいんだ。深結ちゃんが応援したから頑張れる人たちを、深結ちゃんに見せてほしいんだ」
その宣言通りに。研護お兄ちゃんはMAXウォーズの信坂代表、そして嶺上からの避難者の代表として、チームを優勝に導く大活躍を見せてくれた。
重そうなアーマーで大きな武器を振り回し、速く激しく動き回り、チームの先頭で戦い続ける姿も、たまらなく格好よかったけれど。
君が応援してくれたから頑張れた――というストーリーを信じさせてくれたことが、何よりの救いだった。
ただのスポーツでも、合戦ごっこでも、人の心が救われる。深結の心が成した証明が、深結自身を照らしてくれた。
MAXウォーズで活躍する研護お兄ちゃんへの、初恋にも似た憧れで、深結の少女時代は再生し。
そうして膨らんだ心は、さらに惨めに破れることになる。
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