戦型と相性/箭嶋仁武
「言葉くらいは……猛攻、とか?」
「惜しい。
具体的なフォームや技というよりも概念的な分類である。相手と得物を打ち合う前、自分のどんな行動を相手に意識させるか。その後の戦技へのつながりを決める、最初にして最大の分岐ともいえる。
「プレイヤーや武器種によって、このスタンスの向き不向きがあるんだよ。そしてあたしらの戦い方はこのうちの奇動に近いんだ。
トリッキーに動き回って間合いやタイミングを幻惑する。すり抜けてライン突破するぞって思わせて攻撃を誘い、それをチャンスに変える。来なかったらすり抜けて突破する。
体の動きを邪魔しない武器が向いているから、本太刀とは相性がいいね。片手武器に小盾を合わせるのもいけるけど」
「ありえない姿勢でグイグイ動くのが、戦術的にも意味があるってことですよね……見てるだけでも私は楽しいですよ」
深結は感心してくれているし、それは
「ぶっちゃけ俺の好みじゃねえんだよな、ちょこまかしすぎて」
「え、そうなんです?」
「俺はこう、どっしり構えてガツンと一撃見舞ってく方が好みなんだよ。俺の親父とか、
「ないものねだりしてもしゃーない」
たしなめるように仁武の額を小突いてから、義芭は説明を続ける。
「そういうのは剛攻、リーチと威力に優れた一撃の構え。相手が近づいてきたら仕留めるし、警戒しているならそのままラインを押し上げればいい。大太刀と斧槍は大体これ、直槍と薙刀も取りやすいね。
ただこれには、相手の防御をぶち破るような身体と魔術のパワーが必要。いくら繋霊でカバーできるとはいえ、仁には厳しいよね」
「ぶっちゃけ魔力出せたら大太刀選んでたわな俺」
「その心は」
「一番格好いいだろ」
ふふ、と笑う深結。
「意外と男の子ですね、仁先輩も」
「意外か? 今も時間あればスーパー魔刃戦士を真面目に観てるくらいだぞ」
子供向けのヒーロー番組である。大きくなるほど発見も増えるぶん、飽きが来ないのだ。
「ってこの話すると止まらんくなるな、義芭続き」
「うい。最後は堅護スタンス、固い守りの構え。敵が攻撃してきたら弾いたり流したりして、その隙にカウンターをたたき込む。これも、警戒しているならラインを上げればいい。守りが大事だから、盾持ちは大体これになるね」
「今度戦う
「だね。ただ盾、つまりは魔甲の耐久性強化にも割と魔素を食うから、これも仁は向かない。そもそも片手武器って魔術出力ないと火力出しにくいからね」
「なるほど……けど、防御重視なら槍みたいな長物でもいけるんじゃ?」
「深結ちゃんのイメージは合ってるぞ。槍とか薙刀でこっちを選ぶ人も多いし、本太刀でやる人もいる。俺みたいに純体の撃剣術とか制棒術やってるとこれ向いてるのよ、深結ちゃんも観たことあるだろ?」」
「はい、こう、バシって弾いてビシって突くみたいな」
やけに気合いの入った擬音がやたら可愛らしかった、
「……あれ、じゃあなんで仁先輩は堅護じゃなくて奇動にしてるんですか? あんまり好みじゃないんですよね?」
「そりゃ、そっちの方が勝ちやすいからだな。純体はともかく魔術補助が絡んでくると、向かってくる打突も激しくなるからな」
「あたしの魔術をどう絡めるかってなったとき、パリングを磨くよりもマニューバを増やした方が効果的だったんだよ。仁も最初は渋ったけど」
「見てくれも微妙だけど、G掛かるから気持ち悪くなるんだよな」
「そっか、体も大変ですよね……けど仁先輩のスタイルも私はすごく好きですよ! 映画みたいなアクロバティックな動きが実戦でできてるの、ダンス出身者としても眩しいです!」
身を乗り出す勢いで語ってくれる深結こそ眩しい。確かに仁武と義芭は、アクション映画やMAXダンスでの魔術補助も参考にしていた。
「ここは素直に喜ぶとこだぜ仁」
「ああ、ありがとな深結さん」
「はい、応援してます!」
「で、好みはともかく勝ててるってのが大事でさ」
義芭は深結に、これまでの練習試合での戦績を見せる。仁武と義芭で組んだ場合は同期相手には7割強の勝率をマークできている。
「先輩相手なら負け越すのが普通そうですけど、ギリ5割いけてるんですね?」
「ああ、義芭と組んだ場合はな」
授業の一環で他の生徒を繋援士とする場合もある。ただ、義芭とのコンビがあまりにも馴染みすぎて、他バディとでは非常に窮屈である。それは仁武をバディにした繋援士側でも同じらしい。
「けど直央先輩は……いや、盾を装備した本気の直央先輩には、マジで勝てないんだ」
「そうじゃない場合ってのは、練習とかですか?」
「ああ。後輩に勝ち筋を教えるときに、あえて変な癖を出したり、別の武器使ったりしてくれるのよ」
「面倒見いい先輩なんですね」
「人望の塊だよ、魔刃科4年生の級長やるくらいだし……けど大会となれば勝ちたい、だから俺らの武器を見直そうって話に戻るんだよな」
「そうでした。それで盾を壊すために斧系が良くて、ですよね? となると斧槍か手斧かって話で……あれ、さっき義芭ちゃんがチラッと言ってましたよね?」
「ああ。手斧+盾か、手斧二挺かの選択になる。つまり斧槍は考えてないな」
「それは、マニューバ重視の奇動スタンスを維持するためですか? 重い斧槍だと戦法が大きく変わるから」
「そういうこと。呑み込めてきたな、深結さんも」
手斧は柄40センチ、刃渡りは15センチ。木工作業で使うものに比べ、刃がかなり大きくなっているのが特徴だ。それだけ斧頭が重くなっているため、片手で使いこなすにはそれなりの慣れが必要だ。
「んで最初の問いに戻るんだよな、仁がどっちを選ぶか。どうよ、今の感覚」
義芭に問われ、仁武はこれまでの知見を遡りつつ答える。
「ツイン斧って防御面がクセあるんだよな、柄が短くて刃が狭いっていう。カウンターでの武壊が狙いやすいって強みはあるけど、それを実現する難度が高すぎる」
「実際に見かけないもんね。じゃあどの盾よ?」
「
小盾、洋風にはバックラー。直径30センチの円盤状の本体に、半球状の膨らみが付いた盾である。カバーできる範囲は狭いが動かしやすく、相手の攻撃を受け流してからの反撃につなげやすい。
「確かに小盾なら耐久魔術の魔素効率もいいし、仁武との相性はいいよね。ただ問題として」
「本太刀とは全く違う感覚になるよなあ」
「うん、その負担は仁の方がデカいからね」
デュアエルにおいて相手に応じて武器構成を変える選手は少なくないが、似通った武器種との間で行うのが普通だ。両手用と片手用+盾を行き来するのは珍しい、両立しづらいからである。
「けどマルチプレイヤーだってアピールしとけばウォーズの選考にも有利だ、俺はそこも重視したい」
しかしチーム競技であるMAXウォーズになると、戦術によって試合ごとに武器を変える機会は格段に増える。ましてや仁武が目指すのは、試合中の武器変更という特権を持つエースポジションの
「だよね。じゃあ今度の直央先輩との稽古に本太刀で挑んで、負ければ手斧+小盾の特訓開始。もし勝てたら?」
「あの人が稽古とはいえ勝たせてくれるとは思えんが……その場合も要検討じゃないのか? 先輩が奥の手を隠していそうなら、こっちも対策は要るだろうし」
「了解、いずれにせよ振り返りつつ検討ってことで――で、ミユミユ」
「はい」
途中から深結は置いてけぼりになってしまったが、ちゃんと話は聞いてくれていたらしい。
「つまりあたしと仁は、格上の先輩に不利そうな戦術で挑むことになる。つまり、負ける可能性は高い」
「はい……けど、」
深結は義芭を、それから仁武を見て言う。
「負けるつもりでは戦わない、ですよね?」
「だけど……なんで分かった?」
仁武が聞くと、深結は笑みを浮かべつつ答える。
「義芭ちゃんは、こういう実験は本気でやらないと意味ないって言うし。仁先輩は……どんなときも、負けていいなんて思わないだろうって」
どうやらこの後輩、仁武が思う以上に、仁武を理解してくれているらしい。
「その通りだよ、深結さん。だから確かめてくれ、俺らの本気」
「はい!」
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