偽りの霊能者(2ー3)
「葛木竜泉さんですか? 週刊みやこの滝下です」
タクシーから降りたところで竜泉は自分より頭二つほど背が低い女性に名刺を押し付けられた。
どうやら週刊誌記者を名乗るファンというわけではなさそうだ。
髪の毛は傷んでボサボサで肌の色もくすんでいる。目の下の隈も織田とは比較にならないほど深い。人間らしい生活を送っていないのだろう。
「はぁ、記者さんがなんの御用で?」
「あなた、霊能者になる前はホストだったそうですね?」
「そうだけど、それがなにか?」
「そのことを記事にしますが、よろしいですね?」
記者は勝ち誇ったように言うが、そんな記事に誰が興味を持つというのだろうか。
「好きにしろよ。宣伝になる」
そんなことはテレビに出始めた頃からいずれバレることだとわかっていた。何の問題もない。霊能者としてテレビに出ていることを伝えていない実家にこの記事が知れたら良い顔はしないだろうが。
「インチキだと騒がれるかもしれませんよ?」
「オレが元ホストだったら霊能力が偽物っていう証拠になんの? ホストやってたら霊能力に目覚めたんだよ。それとも週刊みやこさんってとこはホストは霊能力に目覚めてはいけないって世界の理でもあるのをご存じなのかい?」
「そういうわけでは……では、昔のあなたのお客さんに話を聞いて、本当かどうか確かめますよ?」
おそらく彼女の求める反応ではなかったのだろうが、そんなことでは動じるわけがない。
「まぁ、好きにしてくれよ。ついでに教えておくと売れない舞台役者もやってたんだ。本当に全然売れなくて、それでホストもやってたんだわ。で、ある時に霊能力に目覚めて、霊能者としてスカウトされたってだけだよ」
実際には霊能力に目覚めたりなんてしていない。その部分だけは嘘だ。
「ちなみにオレはクリーンなホストだったから探ってもそんなに悪く言う客も出てこないと思うぜ」
「そうですか。では、あなたの地元の知り合いに取材をしても誰も悪くいいませんかね?」
彼女が精一杯威圧的な表情を作っているのはわかる。
しかし、まったく気圧されるということはない。
「あぁ、地元のツレか。どうしてんのかな」
「最近、テレビに出てますけど、誰からも連絡来ないんですか?」
「別に連絡してねーし。親にも言ってねーよ。もうちょっと売れてきたら気づく奴も出てくるかもしれねーけど、今のところはなんもねぇな。じゃあ、もし地元のツレに話聞くことあったら、オレが元気にしてるって伝えといてくれよ。みんな笑うんじゃねーかな」
「そうですか」
滝下記者は竜泉の反応も期待外れだっただけではなく、おそらくスキャンダルのようなものも出てきそうにないと悟ったのだろう。明確に落胆している。
「そんな顔するなよ。オレは確かにホストクラブに勤めていたが、別に何も悪いことはしてない。後ろ暗いことはしてないから過去を幾ら探られても平気だ」
「あーあ、ボツかな」
「かもな。でも他に何もなければテレビで人気の霊能者が過去にホストやってて女を泣かせてきた、みたいな見出しで隙間を埋めるくらいにはなるかもよ」
竜泉は週刊誌の記事がどういう基準で掲載されるのかなんて知らないが、おそらくこんなネタが巻頭や良い位置に載るわけないことだけはわかる。
「最後にあんたのことも視てやるよ」
「霊視ってやつですか?」
滝下は吐き捨てるように言った。
「あぁ、霊視ってやつ。そうだな、あんたは人を見る目がない、はっきり言って。週刊誌の記者には向いてない。他人に騙される星の下に生まれている」
睨みつけられているが、竜泉は続ける。
「良い大学出て、マスコミ業界で働きたいという希望を持って出版社に入ったが、想像以上の激務で心身共にズタズタだ。このままだと倒れるのは時間の問題だろう。実家の親も心配している。東京は向いてなかったと諦めて地元に戻れ。そうだな、もし教員免許を持っているなら教師になるのもいいだろう。ないなら公務員試験を受けろ。今よりずっと幸せな人生が待ってるはずだ」
「あんたに何がわかるっていうの」
滝下は今にも泣きだしそうだ。
「わかるさ、霊能者なんだ」
竜泉が過去にホストクラブで働いていたという記事は小さく掲載された。ただし、霊能力は本物だったとも書かれていた。
その後、滝下記者は地元の熊本に帰ったと人伝に聞いた。
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