偽りの霊能者(2ー1)
本名は鈴木浩太郎、源氏名は竜牙、そして芸名は葛木竜泉。
スカウトしてきた織田夏美のプロデュースにより、長髪をポニーテールにして、着物を着せられている。
もともと高身長で筋肉質、さらに顔も良いということもあり、まだ番組は始まったばかりだが彼には結構な数のファンがついていた。
「竜泉さん、いかがですか?」
司会の若手アナウンサーが話を振ってくる。
スタジオは相談者と霊能者三人が二手に分かれて座っており、その中心に司会者が立っている。
――いかがもクソもあるか。
竜泉は相談者の顔をジッと見つめる。
「今、霊視をなさってるんですね?」
「静かに」
竜泉は口に人差し指を当てる。
霊視なんてしているわけがない。適当なそれっぽいコメントを捻り出すまでの時間を稼いでいるだけだ。
この相談者は中年女性で、最近明らかに霊的なストレスを感じているらしい。
――霊的なストレスってなんだ? そんなもんあってたまるかよ。
この番組ではトップバッターの負担が大きい。
霊能者――として出演している詐欺師――三人の意見はなんとなく合うように調整してコメントするのだが、最初の一人目が大外しすると後の二人がコメントに窮する。
相談者に否定されると全カットもありうる。
霊能者サイドは番組プロデューサーの織田がどこからともなく連れてきた竜泉のような役者だったり、元地下アイドルだったり、場末の占い師だったりするのだが、全員が霊感やら未来視やらの能力があるという体裁で出演している。
そして全員がこの番組をきっかけに有名人となり、芸能人として一生食っていこうと画策しているのだ。おそらく自己顕示欲が強く、かつ使い勝手がよく、成り上がるためなら嘘をつくことを厭わない人間を連れてきているのだろう。
ゆえに霊能者として席に座る三人の必死の連携によって、番組は盛り上がり、深夜帯としてはなかなかの高視聴率をたたき出しているという。
竜泉は改めて相談者の女性をじっと観察する。
これといった特徴はないが、どことなくホスト時代の客の中にこういうタイプの女性はいたような気がする。
小奇麗ではあるが、どことなく顔色が悪い。そして竜泉はこの顔色の悪さに見覚えがあった。
「あなた、お酒と悪い縁がありませんか?」
竜泉のその言葉に彼女はぎょっとしたように目を見開く。
――当たったか。ひとまず俺の仕事はこれで終わりだな。
役目を果たした竜泉は後の二人に託して、一旦口を噤む。
あとの二人も竜泉の発言の意図を汲んだのだろう。
一瞬の目くばせの後――。
「キッチンにあなたを蝕む物が見えます」
〝高田馬場の奇跡〟と呼ばれる女子大生霊能者が言った。彼女はもともと地下アイドルだったのだが、引退後にオカルト系タレントに転身しようとしていたところを織田に見出されたらしい。
織田が見出すのは霊感ではなく、嘘つきの才能なので彼女も相当なものなのだろう。
「ちょっと失礼」
広島で占いを営んでいたという老婆〝広島の祖母〟が立ち上がり、相談者の腹部に手をかざす。
「どうですか?」
「肝臓に悪霊の祟りを受けているようですな。このままでは危ない」
そして老婆は目を閉じ、小さく口の中でもごもごと何かを呟く。
外から見たら除霊のための呪文を唱えているようにしか見えないだろう。
違う。彼女が唱えているのは今日の夕食のレシピだ。本人がそう言っていた。なんの意味もない言葉を急に作り出すのは難易度が高いため、口を閉じたままで一定時間潰すのにちょうどいいのがレシピだったそうだ。
――肝臓なんてピンポイントで悪霊が祟ってたまるか。どんな悪霊だよ。アホらしい。
〝広島の祖母〟が息を荒くしながら、ソファ席に戻ってくる。
竜泉と女子大生霊能者は笑いを堪えるのに必死だ。
「少し、楽になったような気がします」
相談者はプラシーボ効果なのか、番組進行を妨げないようになのかそう言うことが大半なのだが、このまま帰しても同じことの繰り返しだろう。
龍泉があえてゆっくりと立ち上がる。
「あなたとお酒というのは非常によくない繋がりがあるんですね。料理に多少使うくらいなら問題ないのでしょうが。今日ご自宅に戻ったらまず家中のお酒をすべて捨ててください」
「はい」
「そして、今回は我々が悪霊を祓いましたが、あなたの内臓は物理的にも損傷しています。すぐに病院に行って検査と治療を受けてください。わかりましたか?」
「はい、先生」
その後、カメラとスタッフが同行することになった。
アルコール依存症だった彼女の肝臓には疾患が見つかり、今は治療を受けている――というテロップが放送時には付くだろう。
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