第22話
一瞬の浮遊感の後、入口まで転移が完了する。
目を開けると、転移結晶部屋の出口へと歩いていく5人の後姿が見える。
それに続いて部屋から出ると、普段は人の疎らな入口付近に、多くの人の姿と喧騒があった。
外へ走って行く者、3人に駆け寄る者、行動は様々だが、多くが安堵の表情を浮かべていた。
流石に抜き身のまま『落』をダンジョン外に持ち出すわけには行かないため、鞘に戻し再度肩に担ぐ。
脇の端末に九条名義の探索者証を通し隔壁から外に出ると、入り口前広場にはテントが設置され、何台もの車両が止まっていた。
救助拠点と言ったところだろう。
それらの中に、私は『Kokonoe Group』と書かれた数台の大型トレーラーや車両があるのを確認する。
うちの対応拠点として派遣されてきたようだ。
傍で見覚えのある人影が手を振っているので、手を振り返しておく。
「ロク、残りの対応は我々でやります。トレーラーで武装解除、担当者の指示に従いなさい。」
私は無言で頷く。
ロク、というのは名前を雑に伏せただけ。あまり使われることは無いが、名前を隠す目的がある際に使われることがある。
四葉さんの声が聞こえていたのか、三島さんがこっちを見ていたので、軽く手を振った後にトレーラーへ向かう。
そこには、先程手を振った人物。ロマンスグレーといった容貌の、落ち着いた雰囲気のスーツ姿の男性が待機していた。
事務職の竹田さん。御年93歳である。
見た目だけではわからないが、彼も進化種である。種族は知らない。
「お疲れ様です。大変だったようですね。」
「お疲れ様です。大変、まあ、死人が出なくてよかったかな、って感じですね。」
「違いないですな。では中へどうぞ。刀はそちらへ。」
タラップを上りトレーラーの中に入ると、脇に設置されているマジックバッグならぬマジックボックスに、刀を差し込んで収納する。
バッグもボックスも、形態が違うだけで機能自体には変わりはない。
「お疲れ様ー。」
「お疲れー。」
中では、数人の顔見知りの職員が端末に向かって作業をしており、声をかけてくれる。
「お疲れ様でーす。」
ここは、様々な用途で使用される、指揮所のような場所である。
今回のような救助時や災害時の、現地拠点として活躍する。
このトレーラーは情報端末といった物理コンソールなどが設置されており、オペレータールームの様な仕様だが、他にも医務室が設置されたもの、宿泊施設等、様々なバリエーションがある。
なお、必要になるような有事が発生することは滅多に無く、専ら使用しているのはエンタメ部門である。
イベント会場での総指揮、待機場所、急病者用の医務室、楽屋や食堂等として活躍している。
「では、朝山さん。今回はお疲れさまでした。無事の帰還、非常に喜ばしいことです。」
「ありがとうございます。」
「さてこの後ですが、依頼のあった素材を持って京都への移動となります。昨日探索時の素材はどうされますかな。」
予定ではまた浜松まで売りに行くつもりだったが、今日はそれができない。
九重側は在庫が潤沢にある、というという話だったので、浜松に売った方が合計売却額は高くなるだろう。
ただ、後日売却となると手続き等が面倒になるので、ここは諦めて全部売ってしまう方が楽になる。
「全部九重に売却でお願いできますか。」
「はい、承りました。では、売却するものはこちらへ。依頼の素材も一緒に入れて頂ければこちらで仕分けしておきます。」
「お願いします。」
マジックバックの口と口を合わせ、だばー、と必要なもの以外を全て流し込んでしまう。
素材以外の装備品は入っていない、はずだ。
「えっと、はい。OKです。」
「お預かりします。ではそちらの部屋で着替えを。と、その前に、それに触れておいてください。」
そこには、私と背格好の近い球体関節の人形。
しっかりと、私と同じ巫女装束を着ている。流石に蛍光千早は着ていないが。
私がその頭部に手を当てると、人形の見た目が私そっくりに変化する。
「ふむ、顔は少々変えておきましょう。」
竹田さんが手をかざすと、人形の容貌が他人だろうと思える程度に変化する。
これは竹田さんのジョブである『人形師』のスキルの一つである。
人形に触れた人物の容姿を人形に転写するスキルで、多少の変更はできるらしい。
今回は、私の影武者として使用するのだろう。
私は頭から狐面を外すと、人形の顔に装着した。
私が着替えて部屋から出ると、既に仕分けは終っていた。
「依頼の素材は全て提出、ということでよろしかったですかな。」
「はい、それで問題ありません。」
「では、こちらを。」
皮張り風のアタッシュケースを渡される。
ロック済みなので開けれないが、中にはマジックボックスに入った素材が収められているはずだ。
当然普通のアタッシュケースではなく、ダンジョン素材製の頑丈なもののはずだ。
通常兵器で破壊できるかは不明である。
恐らく、マジックボックスを除けば提出素材より高価なのではないだろうか。
「中に、本部へ届ける書類なども一緒に入れてあります。現地でケースごとお渡し下さい。」
「はい、わかりました。」
ここでやることはもうない。後は京都へ直行するだけである。
できれば一度帰宅したい気はするが、仕方がない。
家族には着替える前にメッセージは投げておいたので、もう無事に外に出たことは把握しているはずだ。
「送迎の車両はどれに乗れば。後、チケットは。」
「ありませんな。」
「ん?」
「本部からは、直接『跳ぶ』ように、と連絡を受けております。」
「…本気ですか?」
「正式な指示です。横に接続された車両の、遮蔽ブロックから跳んでいただくことになりますな。」
確かに、私は既に京都にいることになっている。
にもかかわらず、普通に鉄道や空路で移動するわけにはいかない、というのはわかる。
ここから出るにしても、どこで見られているかわかったものではない。
よく考えれば、既に私の個人IDも『京都にいる』ということになっているのではないだろうか。IDチェックが入るような公共交通機関は使用できないかもしれない。
ただ、跳べというのは、正気だろうか。
「到着地点は、本部の第三遮蔽訓練所。既に受け入れ準備が完了したと連絡が来ています。」
「はぁ、まぁ、了解しました。」
「では参りましょうか。」
竹田さんについて、指揮所トレーラーに直接接続された別のトレーラーへ移動する。
外からはトレーラーを移動したことに、気付かないだろう。
「徹底してますよね。」
「それは仕方ありませんな。後で面倒事になるよりいいでしょう。」
トレーラーに設置されている遮蔽ブロックというのは、外部から中への観測を遮蔽するものはもちろんだが、最も重要なのは、中からの影響を一切外に漏らさない、という機能である。
外部への影響が大きい作業などを行う際に運用される、特殊な設備である。
今からやることを何の対策もなしに実行すると、見ていなくても気付く程度には周辺の魔力に影響が出る。
波のようなものが広がる、と言えばいいのだろうか、探索者なら初心者でも何か違和感がある、という程度には気付くだろう。
そういったものを完全に遮断してくれるのが、遮蔽ブロックである。
竹田さんが、認証を行って分厚く重い扉を開く。
見た目は潜水艦や船の水密扉を分厚くしたような構造である。
四角い扉なので、銀行の金庫と言った方がいいだろうか。
「どうぞ。」
私が中に入ると、扉が閉鎖される。
中は4畳程度の広さで、のっぺりした白い壁。天井と壁のライトと椅子がぽつんと置いてある以外は何も無い。
数秒後、壁に設置されたライトが青く発光する。
『遮蔽機能がアクティブになりました。準備をどうぞ。』
「はい。」
スピーカーからの声に、私は自身の体を進化種としてのものに遷移させる。
そこに誰かがいれば、私の目と髪の色が変化し、背後に花びらのような光輪が出現したのを見ることができただろう。
『転移地点は、本部第三遮蔽訓練所です。あちらはスタンバイできたとのことです。準備はよろしいですかな。』
「問題ありません。」
『はい。では、行ってらっしゃい。』
「行ってきます。」
私は空間を跳び越えた。
ダンジョン攻略を指示された雑用係の、少し変わった日常 白崎 八湖 @kshelwky
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