第36話 重なり合う想い
夜の雨がしとしとと降るある日、芽衣と莉奈は、スタジオの明かりの下で作曲に取り組んでいた。
外の雨音が窓ガラスを叩く中、二人は静かに向かい合い、ピアノとパソコンの前に腰掛けていた。
「このメロディ…もっと君のことを感じさせたいよね」 芽衣はゆっくりと弾くピアノの調べを聴きながら、そう呟いた。彼女の声は、どこかほのかな切なさと、決意の混じるものだった。
莉奈は横顔を見つめながら、頷いた。 「うん。君と紡ぐ音が、私の心にずっと響いてくる。これ、私たちの…私たちの想いそのものみたいだよ」
作業の合間の静かな時間。ふと、莉奈はノートに書かれたコード進行に目をやり、ため息交じりに声を漏らす。 「遠くに離れていた時間があったからこそ、こうして一緒に音楽を作れる幸せを実感する。君がいるから、私の日々は温かい」
芽衣はその言葉に、胸が熱くなるのを感じた。手元の楽譜に視線を戻し、指先が震えるほどに莉奈への気持ちが込み上げた。 「莉奈……私、君といると、時が止まるみたいに感じる。どんなに忙しい日々でも、君の笑顔や、君の声を思い出すだけで、不思議と心が落ち着くの」
スタジオに漂う薄明かりの中、二人の距離は徐々に縮まっていった。ふと、莉奈が優しく口を開いた。 「芽衣、覚えてる?あの頃、初めて一緒に音楽を創り上げた日のこと…私たちの心が同じリズムを刻んでいるって実感した瞬間を」
芽衣は莉奈の瞳を見つめ、静かにうなずく。 「あの日の感動は、今も消えてない。君と奏でる音は、すべての苦労を越えて、私たちを繋げてくれる」
その瞬間、お互いの鼓動が耳に届くような静寂が訪れた。二人は自然と手を取り合い、温かな手のひらが重なり合う感触を確かめる。雨の音とともに、心の中で二人の想いがひとつに溶け合っていくかのようだった。
莉奈は少し声を震わせながら続けた。 「私、芽衣の隣にいると、どんな未来も怖くなくなる。君と一緒なら、どんな難題も乗り越えられるって、信じられるんだ」
芽衣は莉奈の手を強く握り返し、優しく微笑んだ。 「私もだよ、莉奈。あなたの存在があるから、私は自分の道を進んでいける。これからもずっと、君と一緒に未来を創りたい」
二人の目が静かに輝き、その瞬間、スタジオの中にただ二人だけの世界が広がった。音楽と共鳴するように、芽衣が奏でるピアノの旋律に、莉奈の声がそっと重なり、二人だけのデモテープが生まれ始めた。
作業が再開され、白熱する創作活動の中で、ふとした合間に交わされる言葉や視線。その全てが、二人の心に刻まれていった。
夜が更けるにつれ、窓の外は次第に冷たい雨から和らぎ、静かな月光が差し込む。芽衣と莉奈は、そんな夜空をしばし見つめながら、また新たな曲のアイデアを探すため、真摯に向き合った。 「私たちの音楽は、これからもずっと君と私の絆そのもの。遠く離れていた日々も、すべてが今の私たちを支えている」
莉奈は芽衣の言葉に、柔らかく微笑んだ。 「うん。私たちは一緒にいれば、どんな距離も、どんな試練も乗り越えられる。それが、私たちの重なり合う想い」
その夜、二人は互いの存在と未来への希望を胸に抱きながら、音楽制作に没頭し続けた。言葉以上に語りかけるメロディーが、二人の心をさらに深く結びつけ、明日への新たな一歩を静かに予感させた。
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