第29話 遠く離れても

雪が舞い散る冬の朝、芽衣は出発の日を迎えていた。

空は澄み渡り、冷たい空気が新たな一歩を踏み出す彼女の頬を刺す。空港は人々の喧騒で溢れていたが、芽衣の心は静かに高鳴っていた。

遠くで見つめる高橋莉奈の姿が目に入る。彼女は優しい笑顔を浮かべながらも、その瞳には寂しさが滲んでいた。芽衣はスーツケースを引きずりながら、莉奈の元へと足を運んだ。

「いよいよだね、芽衣」

「うん。でも、なんだか信じられない気持ち」

二人は静かに向き合い、それぞれの想いを胸に秘めていた。周囲の喧騒が遠のき、まるで二人だけの世界にいるかのようだった。

「離れていても、私たちの絆は変わらないよ」

莉奈がそっと芽衣の手を握る。その温もりに、芽衣の胸は熱くなった。

「ありがとう、莉奈。あなたがそう言ってくれるから、私も勇気を持てる」

「私も、芽衣が頑張っていると思うと、自分自身も成長できる気がするの」

芽衣は微笑みながら、莉奈の瞳を見つめた。

「約束しよう。お互いに成長して、また一緒に音楽を奏でよう」

「うん、必ず」

その瞬間、アナウンスが出発の時を告げた。別れの時間が迫る。

「行かなきゃ」

「気をつけてね、芽衣」

「莉奈も元気でね」

二人は抱きしめ合い、その温もりを心に刻み込んだ。離れたくないという想いが溢れる中、それぞれの未来のために一歩を踏み出す決意を固めた。

ゲートを通り抜ける間、芽衣は何度も振り返り、莉奈の姿を目に焼き付けた。莉奈も手を振り続け、笑顔で見送る。

飛行機が離陸し、空高く舞い上がる。窓の外に広がる雲海を見つめながら、芽衣は新たな地での挑戦に胸を膨らませた。

その頃、莉奈は大学のキャンパスを歩いていた。冷たい風が頬を撫でる中、芽衣との思い出が頭をよぎる。

「離れていても、心は繋がっている」

自分に言い聞かせるように呟き、ポケットからスマートフォンを取り出した。そこには芽衣からのメッセージが届いていた。

「無事に着いたよ。空がとても広くて、街も賑やか。今度、ビデオ通話しようね」

莉奈は微笑みながら返信した。

「よかった。新しい生活、楽しんでね。ビデオ通話、楽しみにしてる」

ふと見上げると、澄んだ空に一筋の飛行機雲が伸びていた。

数日後の夜、二人はビデオ通話を繋いだ。画面越しに見る芽衣の顔は、少し緊張しているようだったが、その瞳は輝いていた。

「時差って不思議だね。そっちは朝?」

「うん、こっちは朝だよ。そっちは夜だよね」

「そうだよ。新しい環境には慣れた?」

芽衣は窓の外を映しながら答えた。

「まだ少し慣れないけど、街並みがとても綺麗でワクワクしてる」

「それは良かった。私も負けてられないな」

「莉奈は最近どう?」

「私はね、音楽療法のボランティアに参加することにしたの。色んな人と触れ合えるから、すごく楽しみ」

「素敵だね。莉奈らしいよ」

お互いの近況を報告し合い、笑い合う中で、距離の壁を感じさせない温かさがそこにはあった。

「そうだ、せっかくだから一緒に演奏しない?」

芽衣が提案すると、莉奈は驚いた表情を見せた。

「どうやって?」

「ほら、オンラインで一緒に演奏できるアプリがあるんだよ。試してみようよ」

「面白そう!やってみよう」

二人はそれぞれの楽器を手に取り、画面越しに音を合わせた。初めはタイミングが合わず笑い合ったが、次第に息が合っていく。

静かな夜、二人の奏でる音が心地よく響いた。遠く離れていても、音楽が二人を繋げてくれる。

演奏が終わると、芽衣は満足そうに微笑んだ。

「やっぱり、莉奈と一緒に演奏するのが一番楽しい」

「私もだよ、芽衣。距離なんて関係ないね」

「うん。これからも一緒に続けよう」

「約束だよ」

その後も、二人は定期的に連絡を取り合い、お互いを支え合った。新しい環境での苦労や喜びを共有し、成長していく。

ある日、芽衣は大切な決意を胸にメッセージを送った。

「莉奈、実は留学先でコンサートを開くことになったんだ。できれば莉奈にも来てもらいたい」

莉奈はそのメッセージを読んで胸が高鳴った。

「本当?ぜひ行きたい!詳しい日程を教えて」

「ありがとう!詳しくは追って連絡するね」

胸に芽生えた期待と再会への想い。それぞれの道を歩みながらも、二人の絆はより一層強くなっていく。

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