第3話 近づく心

新しい一日が始まり、高校のキャンパスは朝の光に包まれていた。

佐藤芽衣は教室に入ると、すでに席について本を読んでいる高橋莉奈の姿を見つける。

「おはよう、莉奈!」

明るい声で話しかけると、莉奈は顔を上げて微笑む。

「おはよう、芽衣。」

その自然なやり取りに、クラスメートたちは驚いた表情を見せる。無口で近寄りがたい存在だった莉奈が、芽衣とは親しげに会話しているからだ。

休み時間、芽衣は友人の美咲と一緒に昼食をとっていた。

「最近、莉奈ちゃんと仲良いね。」

美咲が興味深そうに尋ねる。

「うん、一緒に音楽の話をしたりしてるんだ。」

「そっか。私も話してみたいけど、なかなかきっかけがなくて。」

「じゃあ、今度一緒にお昼食べようよ!」

芽衣の提案に、美咲は嬉しそうに頷く。

「いいね、それ!」

その日の昼休み、芽衣は莉奈の席に向かう。

「莉奈、今日は一緒にお昼食べない?」

突然の誘いに、莉奈は少し驚いた表情を見せるが、やがて頷く。

「うん、いいよ。」

三人は中庭のベンチに座り、お弁当を広げる。春の穏やかな陽気が心地よい。

「改めて、私は美咲。よろしくね、莉奈ちゃん!」

「よろしく、こちらこそ。」

美咲の明るい性格に、莉奈も緊張を解いたようだった。

「莉奈ちゃんは、音楽が好きなんだって?」

美咲が話を振ると、莉奈は少し照れながら答える。

「うん、ピアノを弾くのが好きで。」

「すごいなぁ!私は全然音楽は苦手だから尊敬しちゃう。」

芽衣は微笑んで二人の会話を見守る。莉奈が他のクラスメートと打ち解け始めていることが嬉しかった。

その時、遠くから数人のクラスメートがこちらを見てひそひそと話しているのに気づく。笑い声とともに何かを話している様子だ。

「何だろう、あれ?」

美咲が首をかしげる。

「気にしないでおこう。」

芽衣はそう言って話題を変える。

放課後、芽衣と莉奈は音楽室で一緒にピアノを練習していた。

「次の文化祭で、この曲を一緒に演奏できたら素敵だね。」

芽衣が提案すると、莉奈は嬉しそうに頷く。

「そうだね。二人でなら素敵な演奏ができると思う。」

その時、音楽室のドアが開き、男子生徒たちが入ってきた。

「お、こんなところにいたのか。」

彼らの視線にはどこか意地の悪さが感じられる。

「いつも二人で仲良くしてるんだな。」

芽衣は不快感を覚えつつも冷静に返す。

「音楽の練習をしていただけだよ。何か用?」

「いや、別に。ただ、仲が良すぎるんじゃないかって噂しててさ。」

彼らは笑いながら出て行った。

静かになった音楽室で、莉奈は俯いて小さく呟く。

「ごめんね、私のせいで。」

「莉奈のせいじゃないよ。気にすることない。」

芽衣は優しく彼女の肩に手を置く。

「でも、周りに迷惑をかけたくない。」

「私は莉奈と一緒に音楽をするのが楽しい。それだけで十分だよ。」

莉奈は芽衣の言葉に救われたように微笑む。

「ありがとう、芽衣。」

その日の帰り道、二人は並んで歩いていた。夕日がオレンジ色に街を染めている。

「今日は色々あったけど、一緒にいてくれて嬉しかった。」

莉奈が静かに言う。

「私もだよ。これからも一緒に頑張ろうね。」

「うん。」

別れ際、莉奈は小さく手を振る。

「また明日。」

「またね。」

家に帰った芽衣は、自分の胸が高鳴っているのを感じていた。

「何だろう、この気持ち…」

芽衣は初めての感情に戸惑いながらも、明日また莉奈に会えることが楽しみで仕方なかった。

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