第4話 気遣い

鴇蔭・茉耶奈一行は高級レストランにいる。


慣れている鴇蔭は周りの雰囲気などを気にはしていないが、茉耶奈は人と関わることがあまり少ないため、この場に馴染むことができずに身を潜めている。


突然だが、ここは6人掛けの席だ。

本来なら3対3で座るのが、常識的である。

しかひ、一行は2対4という比率で座っている。


なぜ3対3で座らないのかを悩んでいる鴇蔭。


こっちは2人でスペースにも余裕があるに、親たちは本来なら3人で使うスペースを4人で使おうとしている。


狭くないかなと大丈夫かなと心配で思っていて、今にも言い出してしまいそうになるくらいには重たく、彼の心に来ていた。


だが、ここは言わないべきであるとも鴇蔭は思っていた。


鴇蔭が目を離した隙に、茉耶奈はかけていたメガネを取って、持っていたハンカチでレンズを拭く。


「母さん…父さん、そっち狭くないか?一人こっちに来て…」


「大丈夫だ、大丈夫」

「茉耶奈ちゃんと一緒に座ってて」


父さんたちは一瞬の隙もなく、微笑んで返してくる。


これがこの世の中を生きていくために必要な力なのだろうと思ってしまう鴇蔭だが、どうでもよくなかったため忘れる。


隣に座っていた茉耶奈は思わず、ビクッと反応させてしまった。


いきなりヘイトを向けられたことにびっくりしてしまったのだろう。


このままだと場の雰囲気が悪くなっていく一方だと考えた鴇蔭は、すぐに他の好奇心へと乗り換える。


「そういえば、いつからこの話をしていたの?」


覚えていないのかと疑問を浮かべた保宗と寛大は、互いの目を合わせて頷いた。


「いつから、て」

「先週の日曜に2時間程、2人っきりでお見合いさせたのだが、覚えていないか?」


「え?」


鴇蔭はそんなことあったかと焦ってしまうが、記憶を漁り始めるとすぐにその日について出てきた。


数日前、和室で父さんに待っていろと言われて、待っていたらおそるおそる同い年ぐらいのメガネをかけた女の子が入ってきた。


そして、母さんも顔を出して2時間程、2人でお話しでもしておいてねとだけを言ってどこかにいってしまった。


鴇蔭は、すぐに蹲って大人しく正座してしまっている彼女に自ら話しかけ、いつも持ち歩いているトランプをすることにした。


それで今に至る。


鴇蔭は確かにあったことではあるが、流石にそれは勝手だよなと思ってしまっている。


もちろんそれを忘れ、親に質問をしている鴇蔭自体も勝手なのだが。


彼は自分の意思はとりあえず置いておき、彼女の意思は全くに反映されていないことと思う。


彼は反論よりも、他に何かしらの意図があるのかと考え始める。


父さんが意図もなく、ただ単に情だけで婚姻させるわけがない。


そんな彼に茉耶奈は覚えていないの?という顔で鴇蔭を見てびっくりし、下を向いて小声で何を呟く。


「あんなに楽しくやっていたのに…」


あのときの出来事を彼女は覚えている。


「どうしたんだ?茉耶奈?何か言いたいことでもあるのか?」


「い、いや!なんでもない!んっ………」


その呟きは親本人にも聞き取れなく、彼女は寛大の顔を見て、大きな声で否定する。


けど茉耶奈はまた下を向いて、耳を赤く染めてしまう。


この沈黙を突き込むように鴇蔭は話をしようとする。


「で、父さん。俺はこ……いや、やっぱりなんでもない」


鴇蔭は結婚についてどうでもいいと未だに思っている人間である。


しかし、何かしらの意図があるのだとしたら、直接聞いておきたいところ。


聞こうと動いたが、保宗が口にしないと言うことは聞いても無駄だということに経験上で繋がっている。


それに茉耶奈本人がその状況になったときに、気持ちが良い状態で居られるのか言い切れないため、やめておくことした。


一つの話が終わると、すぐに鴇蔭たちは予め予約しておいた料理が届くまで、世間話をしていた。


母さんは彼女の母さん同士で、父さんも彼女の父さん同士で話している。


この会話で何かを得られるかもしれないと思った鴇蔭は両方に耳を傾ける。


親たちの会話は世間話ではある。


気楽に息子,娘の自慢話をしているところと少し読み合いを混ぜた話をしているところだ。


鴇蔭は高度な読み合いにいつかああなれるといいなと思っていた。


「そういえば、鴇蔭くん。うちの娘の呼び方は"ま・や・な"でいいからねぇ」


「お母さんっ!!??」


突然、彩奈は何かを思い出したかのように茉耶奈にとっての爆弾発言をする。


わかりましたと返事を返そうとする鴇蔭。

しかし、それは鴇蔭の反射速度を遥かに上回る茉耶奈によって、掻き消される。


話して欲しくないオーラを醸し出していた茉耶奈は机を叩くように立ち上がり、自分から咄嗟に手を高速で降って否定する。


「と、ときかげぇくゆ!よよ、呼び方はなんでもいいから!!!」


「……ああ、わかった。茉耶奈で呼ばせてもらうよ」


「………」


流石の鴇蔭でも、茉耶奈の咄嗟の行動に少し驚いてしまったようだ。


茉耶奈は言いたいことを言うと、静かに席に座り直し、ズレたメガネを直す。


鴇蔭は優しく気遣ったつもりではあったようだが、がっかりしてしまった。


なんだかかんだで結婚発表二次会は終わりを迎える。


「ではみなさん。食べ終わったようなので、今日はお開きとしようと思います」


無限に続く自慢話と読み合いに、終わりが迎えそうになく、鴇蔭自身が終点させようとしていたのだが、露骨に穂沙が切り出した。


「そうね。荷物を運ぶ時間稼ぎもできたようだし、2人には鍵を渡して、帰りましょうかね」


「ああ、そうだな。では、鴇蔭くん、うちの茉耶奈を頼んだぞ」


「はい?わかりました。必ずしや茉耶奈ちゃんを幸せにして見せます」


「えっ!?」


「おお、それは良い意気込みだ」


「鴇蔭。茉耶奈ちゃんはあまり気強いタイプではないから守ってやるのだぞ」


「わかっているよ」


「えっ!?」


「「では期待してるぞ」」


「もちろんです」


「えっ!?」


「じゃあこれが鍵ね。鴇蔭くん」


「はい」


「えっ!?」


ぱらぱら漫画のように流れた時。

話についていけずに、茉耶奈は顔を真っ赤にして固まってしまう。


彩奈にっこりとした表情で鴇蔭に鍵を渡し、彼はそれを受け取った。


(何か違和感……)


(とりあえず、今はそんなことに構ってなどいられない。)


(なんとしても早くこの状況から打開せねばならない。)


鴇蔭は何にも言葉に発して聞かなずとも、現在どういう状況にいるのかを把握していた。


これはまさに"同居しろ"といっている。





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