風になる前に

誰もいない屋上で

わたしは風になろう

音が遠くて

世界はもう夢みたいに

ぼやけてた


手すりに手を置いて

見下ろす街がまるで

ジオラマみたいで

ここに、わたしはいなくてもいいな

ってふいに

思ったの

思ってしまったの


痛みも悲しみも

もうほとんど感じないのに

胸の奥だけ

まだ少しだけ

“あたたかさ”が残ってるの

悔しいよ


誰にも見つからずに

誰にも思い出されずに

そっと消えたい

泡みたいに

音も立てずに

人魚姫になりたいの


「ごめんね」

誰にも言えなかったけど

ほんとはね

誰かにただ「そこにいて」って

言ってほしかったの

「私がてもいいんだよ」って


目を閉じる

風が肌をなでる

たぶんこれがきっと

“さよなら”

ってやつだ

涙はもう枯れている


ねえ、神様

生まれてきてごめんね

でも、ちゃんと愛される夢は

一度だけ見られたよ


さようなら

世界

おやすみ

わたし



____________________



2025/07/12

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