glass & lace



ワイングラスをくるくる

ひとり遊びの

バルコニー

赤い液体が揺れるたび

夜の静寂に

微かな熱を落とす


街の光が足元に散って

まるであたしを

置いてけぼりにするみたい

少し悔しいの

こんなに着飾ったのに



風がレースの隙間をなぞって

冷たいはずの空気に

思わず息が熱を帯びる

誰もいないのに

誰かの視線があるみたいで

ほんの少し

脚を組み直す


何も言っていないのに

誘ってしまう

この距離感

誰も触れてこないけど

“そのつもり”の自分が

胸の奥で笑ってる



ねぇ

このグラスの中で揺れるワイン

その色よりも赤く

唇を染めて

あなたの記憶に

残れる気がしたの


本当は——

退屈と期待を隠すように

この夜を

ゆっくり

ほどいて

いたいだけ

なのに


あたしは

誰かの腕に包まれるより

誰にも

届かないところで

美しさだけを

証明したい


ねぇ

このドレスの

意味を

知ってる?

見せるためだけに

選んだ色

誰にも

触れさせない

でも

ずっと

見ていてほしい


紅が落ちる前に

今夜のあたしが

夜にほどけてしまう

前に

どうか

この一瞬だけでも

“綺麗だった”って

思って




____________________


2025/04/12

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