第33話
ハーフタイム中からはピッチに降りると騎院が言っていた通り北高校サッカー部キャプテンは何時の間にやら居なくなっていて入れ替わる形で城ケ崎が戻ってきていた。
「なんの用だったの?」
幼なじみのいつもの飄々ぶりに呆れつつも冴木はとりあえず4人を代表して聞くことにした。
「んま、端的に言うとネタバレになるから言えないやね」
「そうか。今日はやけに質問の問いを得られない日だな、と、そう言うこと?」
「せやね」
どうやら要領を得ない会話で付き合いの長い2人は納得したようだ。
となると納得が行かないのは残りの3人で、やはりと言うかなんと言うか冴木にしろ城ヶ崎にしろそこにあの
「あ、なに、そう言うことなの?」
そうして遅れて勘の良い市之瀬も察した。
「そう言うことなンゴねぇ~」
「そう、ようやくお出ましってわけね」
全く、冴木を散々待たせて、と誰かに悪態をつく。そんな様子にまだ理解できていない睡蓮と翠川は2人で顔を見合せていた。
そうしてハーフタイムの15分が過ぎると後半が始まる。
選手たちがグラウンドに入るとスタジアム内は私立弥勒学園の史上初のインターハイ4連覇間近と言うこともあり大声援だった。つまりは、
「うちは
「だろう」
運動部身を置いているから分かっては居たことだけれど、こう言う勝利を望まれていない状況でプレーを強いられているグラウンドの選手には同情してしまう。
ボールを失って起こる歓声、こちらがピンチを凌いでも聞こえてくるのは嘆息だけ。そんなプロですら厳しいだろうアウェイの環境で試合をしているのは自分たちと同じ年代の高校生なのだ。
だからむしろ懸命にプレーしている選手たちには感動すら覚えてしまう。もし自分があそこに居たら、今までの大会の試合と同じようなプレーが出来るだろうか。そう考えると翠川は身震いするほど恐ろしくなってしまうのだ。
「私はむしろ燃えるタイプね」
「ふふ、だろう」
市之瀬なら本心からそう言うだろうし、それがまた冴木にどこかの馬鹿を思い出させて、市之瀬が怒るいつものパターンだ。
「……」
そうして1人俯く少女。
運動部の経験が無い睡蓮だけはこの状況に怒りを覚えていたただ1人だった。冴木さんと市之瀬さんは当たり前のように受け入れていて、翠川さんも納得しているようで、それが自分からするととても大人だなぁなんて思わされるけど、子どもな自分はそれでも嫌だった。
なぜなら北高校の選手たちが、栂池が、緒熟が、この決勝に辿り着くまでどれだけの努力を重ねて、どれだけの汗を流してきたかを知っているから。相手校もきっとそうだ。でも、それなら、同じ高校生でここまで頑張ってきた彼らの最後の試合で、片方だけが応援されて、勝利を望まれている状況はおかしいのだ。
だから、自分にできる細やかな抵抗を睡蓮はするのだ。
「頑張れー!」
と北高校の選手を応援する。
それが選手にとってどれぐらいの助けになるのかは分からないけれど。応援せずには居られなかった。
「北高校ファイトー」
「ファイトー!」
市之瀬と翠川も睡蓮の応援に続いて声を出す。彼女らだって、頑張ってきた北高校の選手たちには優勝して欲しいのだから。
✕ ✕ ✕
ただそそれでも現実と言うのは非情で、騎院の言っていた事が段々と分かってきた。点差は1点でゴールを決めさえすれば追い付くはずの僅かな差なのに、その差が絶望的な物に感じられる。早鐘のように感じる心臓が焦っていることを如実に伝えてくる。ただ見ているだけなのにもどかしくて焦って、そんなんだから時間が経つのも早く感じて。そうして気が付けば後半が始まって既に25分、つまりは半分以上が経過していた。
睡蓮は喉が枯れるくらい、今までの人生で一番の声で応援していた。最初は付き添いだった市之瀬も翠川も今では睡蓮と同じくのめり込んでいた。
でも、だからこそ。会場のもうまるで弥勒学園の勝利が決定しているかのような雰囲気が嫌と言うほど伝わってきた。
後半勝負、と言ったけれど今ならそれがどれ程甘い考えだったかがよく分かった。むしろ時間が経てば経つほど勝利の可能性が潰えていく。
──にも関わらず、だ。
「瑠璃先生も君と同じ考えとのことだから何か策があるのでは?」
とこの状況で期待するように冴木は言った。
「あるんだろうンゴねぇー」
城ケ崎も何か楽しみがあるように、いやむしろ追い込まれている状況でこそだろうなんて顔で頷いている。
市之瀬がその意味を聞こうとしたときだった。その曲が流れて来たのは。
✕ ✕ ✕
その重低音が聴こえたのはきっと北高校の関係者が集まっているスタンドの近くに居た観客達だけだろう。
「あれ? この曲CMで聞いたことがあるかも」
と最初に言ったのは翠川だった。
「JRAのに使われてやね」
その疑問に城ケ崎が答える。
そうして、その曲のリズムに合わせるように1人の大馬鹿者がトンネルを潜り抜けてやって来た。
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