ケース0
その少女は平凡な少女でした。
その少女は、愛されている少女でした。
村の人々から。
町の人々から。
街の人々から。
都の人々から。
州の人々から。
国の人々から。
世の人々から。
少女も、
村の。
町の。
街の。
都の。
州の。
国の。
世の。
人々を愛していました。
ある時、その中の誰かが。
あるいは全員が、こんな事を言いました。
――足りない。
――彼女に対する愛が足りない。
――彼女をもっと願わなければ。
――もっと愛さなければ。
足りない――
彼女を――
――清なる存在に――
――星なる存在に――
――聖なる存在に――
彼女を届かさなければ。
――讃えよ。
崇めよ――
――歌え。
仰げ――
――祈れ。
――捧げろ――
――捧げろ――!
――捧げろ――!!
――捧げろ――!!!
――血を。
命を――
――魂を。
――彼女に捧げろ――
――それが愛だ、祝福だ――
頭を潰せ。
首を括れ。
喉を焼け。
胸を突け。
腹を裂け。
腕を切れ。
脚を削れ。
彼女をもっと上へ。
もっと高く。
更に遠く。
積み上げろ。
我々の死体を積み上げろ。
我々の死体で作れ、造れ、創れ。
極点への道を!
山に!
空に!
天に!
宙に!
光に!
***に!
続く道を!
届く道を!
達する道を!!
彼女を――!
彼女を――!!
彼女を――!!!
―――――――――――――。
そして――。
――――そして。
少女以外、そこには誰一人残っていませんでした。
底には、ただ一人、少女だけが残っていました。
少女は悲しみました。
確かに、少女は成りました。
***へと成りました。
今の少女は。
望みを全て叶える事ができ、
奇跡を当然に起こせる存在となりました。
それを自分でも理解していました。
けれど。
「………………」
けれど。
少女はそんな事、願っていませんでした。
少女は平凡な少女でした。
隣人を愛し、動物を愛し、自然を愛する少女でした。
***になる事なんて、思ってもいませんでした。
その上、捧げられる事など。
「……………………」
少女が望んでいたのは。
愛し、愛される事。
人を好きになり、
人に好きになられる。
人の幸せを願い。
人に幸せを願われる。
それが唯一の願望。
それが。
今はただ一人。
少女を愛する人も。
少女が愛する人も。
ただ一人もいませんでした。
少女は暮れました。
悲しみに。
哀しみに。
愁しみに。
慈しみに。
暮れました。
そこで。
少女は考えました。
望みを全て叶える事ができ、
奇跡を当然に起こせる存在となった自分なら。
何でも出来るのではないかと。
取り戻せるのではないかと。
世界を巻き戻せるのではないかと。
そう思った瞬間。
そう考えた瞬間。
時間が曲がり、空間が歪み。
そして。
少女の願い通り、世界は戻りました。
世界は巻き戻りました。
少女を愛した人々が。
少女が愛した人々が。
そこにいました。
少女は喜びました。
自分を愛した人々が。
自分が愛した人々が。
戻ってきてくれたと。
しかし。
けれど。
それは。
世界を裏切る行為。
世界を狂わす行為。
兇行。
凶行。
真実を覆す。
真実を騙す。
真実を隠す。
大罪。
本来、在り得ないはずのモノを生み出す。
禁忌。
そして。
その日から。
少女はなりました。
大罪を犯した咎人に。
最初の魔女に。
原初の魔女に。
少女はなりました。
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