第7話 双子の人魚
ぼくはポース・ホープスター。先日バード族の剣術大会で優勝したムソーン君にグレィスちゃんを賭けて勝負を挑まれて、負けたくない思いで剣を振ったら、あの時と同じチカラを発動して、相手もかなり戦慄していたんだけど、あのチカラで勝っても、ぼくは納得いかなかった。
勝負は保留になって、ぼくはその後も剣術の修行をグレィスちゃんの父エイリークの下で続けていたのだった。そんなある夏の日の事……。
「おはよっポース君!」
「グレィスちゃん、おはよう……」
「ポース君っ、最近色々あって落ち込んでるみたいだからさっ、今度の休みの日に一緒に海へ行ってみないっ?」
グレィスちゃんから直々のお誘い。今のぼくはどこかココロが締まりすぎている感じがした。こういう時はリラックスするのが一番な気がした。
「うん分かった、行ってみるよ」
「色々準備もしなくちゃだからねっ」
こうしてぼく達は海へ行く支度をしたのだった。海……昔母さんがぼくを抱えて飛んで渡って、父さんが一人で泳いで渡った所……。
* * * * * * *
海へ行く日が来た。
「ポース君っ、迎えの馬車が来てるよっ!」
「い、今行きます!」
アルブルタウン始発、南の入り江行きの馬車に乗り、ぼく達は出発した。お互いの両親もグラスさんも、今日は他の仕事で忙しいので、ぼくとグレィスちゃんの二人で出発する。この馬車は、グラスさんがシビルと過ごしていた頃はまだ走ってなくて、時代が進むと共に道は整備されてきて、今は空を飛べる種族じゃなくても、行きたい所へ行こうと思えば行ける時代になりつつある。いつかは両親の昔住んでいた大陸にも行けるようになるんだろうか……。
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馬車にしばらく揺られて、南の入り江にたどり着いた。
「着いたっ!けど、今日はかなり暑いよねっ……」
「水筒の水も全部干上がっちゃいそうなぐらいだよ」
浜辺まで行くと、先日新作アイスを食べに来たビースト族の少女がいた。確か、プレアリーって言ってたね。
「プレアリーちゃんっ!もう来てたっ!」
「こんにちは」
「あっ!グレィスとポースも来てたんだ!早く着替えてこっち来てよー!」
今日のプレアリーさんは、金箔を貼ったような
「どうかな」
「こんな感じっ」
「二人とも良い感じじゃん!」
ぼくの水着はドラゴン族向けに背中が開いたラッシュガードで、グレィスちゃんは水色を基調としたセパレート水着だ。プレアリーさんも良い感じと言ってくれて嬉しい。
「さっき泳いでみたんだけどさ、海の中もけっこう熱かったんだよ」
「熱かったってっ……?」
ぼくとグレィスちゃんは海の中に入ってみた。すると……。
「なんかぬるま湯みたいな温度っ……」
「温泉にしてはぬるいし、泳ぐにしても熱い」
「でしょー!ちょっと暑苦しいよねー!」
バシャバシャッ!
すると、向こうから誰かが泳いで近寄って来た。あれって……。
ザッパーーーン!!
二人のマリーン族が姿を現した。ピンク色の髪の女性と、水色の髪の女性だ。
「わあ!」
「あれって、人魚っ……!?」
「マリーン族って言うんだよね」
二人はぼく達に挨拶した。
「人間と、ドラゴンと、ビーストだなんて」
「珍しい組み合わせで来てるね」
「あ、えっと、ここで暮らしているマリーン族でしょうかっ。わたしはグレィスッ!こっちがポースで、こっちがプレアリーッ!」
「よ、よろしく」
「ここの海ってなんかぬるいんだよねー!」
グレィスちゃんが紹介すると、二人のマリーン族も自己紹介した。
「私はこの海に住むマリーン族のクワルツといいます。水色の髪の子は双子の妹でクレールといいます」
「よろしくです」
ピンク色の髪の方がクワルツ、水色の髪の方がクレールという。尾びれの色も、髪の色と同じだ。彼女達も、ここ最近の海の熱さに困っているみたいだ。
「知っての通り、ここ最近の猛暑で海の水の温度も高くなって、せっかく海水浴に来た人達も参っちゃうぐらいで」
「えっとっ、海といえば……昔、お母さんからこんな話を聞いた事がありますっ!えーっとですねっ……」
グレィスちゃんは昔、母のシルビアさんから聞いた話をした。昔、マリーン族の集落に乱暴なサメの大群が攻めて来た時に、氷竜のグラスさんが海に飛び込み、海水の温度を急激に下げてサメの大群を追い払った事があったと。
「……ってお話だったよっ」
「そのお話、我々マリーン族にとって伝説となっています」
「あの後サメが集落を襲った理由は食糧難だと知り、以降は私達の集落と手を取り合う事になったよね」
グレィスちゃんはさらにこう言う。
「実はわたしっ、グラスさんと一緒にいたシビルの娘でっ、なんかグラスさんと同じ氷の魔力を持っているんですっ!」
「ええつ!?」「これは驚いた」
クワルツさんとクレールさんは驚きの表情を見せる。
「その話を思い出してひらめいたんだけどっ、わたしの持っている氷のチカラを放ちながら泳げば、この海水の温度を冷やせるんじゃないかなってっ!」
「グレィスちゃん、大丈夫?」
「あんま、本気出さなくったっていいからね!」
ぼくとプレアリーさんも心配する。グラスさんの翼は水に浸かれば高温のお湯でも冷水に変えるぐらいの魔力があるからね。でもグレィスちゃんの場合はお風呂には普通に入れるから大丈夫だとは思うけど。
「多分、すごく冷たくなるぐらいじゃないと思うからっ」
「そう……」
「それじゃっ、少しずつチカラを出しながら泳いでみるよっ……それえっ!!!」
ザバーン!!!バシャバシャバシャバシャ……
グレィスちゃんはその辺りを泳ぎながら、両手から氷の魔力をじんわりと放出した。
「あ……何だか水が冷たくなってきた……」
「姉さん、これは……間違いなく……」
二人の鱗も、水温の低下を感じ取っていた。しばらくして、グレィスちゃんはぼく達の前に戻ってきた。
「……ど、どうかなっ」
「本当に、この辺りの海水が冷えたみたいだよ」
「これなら泳いで気持ちいいぐらいね!」
「確かに、そのチカラは偽りのものではない」
「あの時のグラスさんのチカラにも似た優しさを感じます」
ぼく達と双子の人魚も感心した。
「でもさっ、ずっとこうやって泳ぐとさすがに疲れるよねっ……」
「ここはひとまず、私達の特製海藻スープを召し上がってひと休みしませんか」
「今日はちょっと作りすぎちゃったからね」
クワルツさんとクレールさんは、海中にあるマリーン族の集落からカプセルに入った海藻スープを持ってきて、ぼく達は浅瀬の岩に座り、グレィスちゃんのおかげで少し冷たくなった海水に足を浸しながら、海藻スープを召し上がった。
「とても、美味しいねっ!」
「カプセルに入れて運ぶだなんて、マリーン族の技術ってすごい!」
「そういえば、母さんも初めてこの大陸に来た時にマリーン族の海藻スープを飲んでいたって言ってた」
「えっ、そのお話ご存知なのでしょうか」
「あの時確か、私はここに流れ着いたドラゴンの女性を救って、クワルツが、小さなドラゴンの赤ちゃんを救っていたよね」
母さんの話から二人が思い出した事を聞いたぼくはこう言った。
「その時の赤ちゃんって、もしかして、ぼく……なのでしょうか」
クワルツさんは、あの時の事をさらに鮮明に思い出し、ぼくを見て言った。
「キラキラしている水色の瞳と、白い尻尾、間違いなくあの時のドラゴンの子ね!」
「はい……あの時は母さんとぼくの事、ありがとうございます」
「そ、そうだったんだっ!」
「まさかここで再会できるとはね」
グレィスちゃんとクレールさんも驚きの表情を見せた。すると、再会の喜びも束の間、クレールさんがこう言った。
「今からちょっといいものを持ってくるので、皆さん少し待っていただけますか?」
「大丈夫ですっ」
「えっ、何だろう」
「それは持ってきてから説明しますね!」
「アッシも楽しみ!」
サバアッ!
クレールさんは、海中に潜り、自宅からあるものを取りに行って、思ったよりすぐ戻ってきた。
「お待たせしました!陸に住む皆さんに渡したいものがここにありまして!」
クレールさんの手には、何かが抱えられていた。それを見たグレィスちゃんは言った。
「これはっ、人魚の尾びれ……っ!?」
それも3点セットで……!
第8話へ続く。
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