第6話 疾走る閃光

 ぼくはポース・ホープスター。父ステルクと母リュミエールの間に生まれた、多分……光のドラゴン。


 母が光のドラゴンだと判明した時、父が連れ出して長い間逃亡生活をして、その過程でぼくの卵が孵化した時には追っ手に見つかってしまった。


 そこで父がおとりになって母と生まれたばかりのぼくを逃がして、母と共に遠い大陸へとやって来た。


 その大陸に住むドラゴン族のグラスの協力もあり、母は安住の地を見つけ、ぼくはグレィスと初めて出会い、しばらくして父が命からがらここまで来た。


 ぼくが5歳の時にグレィスちゃんと冒険ごっこをしていたら、野生動物に襲われて思わず手を突き出したら、襲ってきたやつの身体は日食に呑まれたように半分消失した。


 その後の調べで、ぼくとグレィスちゃんにはすごいチカラがあると言われ、それから両親やグラスさんの支えもあって、生まれ持ったこのチカラの正しい使い方を勉強している。


 ぼくが12歳を迎えた年。ぼくとグレィスちゃんはグラスさんと知り合いのバード族のヴェーチェルさんの誘いで、彼の息子のムソーン君が参加する剣術大会を見に行く事になった。


 大会はムソーン君の優勝で幕を閉じたけど、あの子はグレィスさんを見るなり猛烈にアピールしてきた。ぼくは彼女の幼馴染だと言うと、あの子は今度勝負しろと言い出して、グレィスちゃんを守るには何としてもぼくが勝たなきゃいけなくなった。


 ぼくはグレィスちゃんの父で冒険家であるエイリークさんに稽古をつけてもらうために、自作の木刀を持って弟子入りする事にした。


   * * * * * * *


 朝早く、ぼくは自宅で朝食を済ませた後、住んでいる洞窟から一直線にグレィスちゃんの家へと向かった。地上を走ってもそれほど時間のかからない距離で、将来飛ぶための体力作りにも丁度いい道である。


「おはようグレィスちゃん!」

「おはようポース君っ!お父さんなら庭で待ってるよっ!」


 庭へ行くと、立派な剣を携えた男性がそこに立っている。グレィスちゃんの父、エイリーク・ブレイバル。いつもは色々な所へ行って宝探しをしたり、大きくて獰猛なやつを退治していたりするって、グレィスちゃんから聞いている。


「剣術を教えて欲しいと聞いたが、理由はあるのか」

「ムソーン君が勝負しろと言って、勝ったらグレィスちゃんを貰うって言ってて」

「そうか……アイツが俺の娘を気に入ってくれるのは嬉しいが、まだまだ嫁に出すのは早い。だからお前が勝って相手に理解させてやれ」

「うん、分かった。では、お願いします」


 ぼくはエイリークさんから剣術の基礎を教わった。剣の持ち方や振り方を教えてくれて、ぼくでも何となく分かる内容だった。稽古の途中、ぼくはエイリークさんの腰にぶら下がっている、くすんだ色の木のナイフみたいなのが目について、これは何なのかを聞いてみた。


「あの……」

「何だ」

「腰に付けている木のナイフみたいなのって何ですか?」


 エイリークさんはそれを持って言った。


「これは、俺が子供の頃に作ったやつで、今でもお守りとして大事にしている」

「そうなんだ」

「初めて冒険ごっこに出かけた日も、初めてグラスとシビル……今のシルビアと会った日も、山の緑の石を拾った帰りでこじらせた時も、俺はこいつと一緒だった」

「ずいぶん、大事にしているね」

「ポースの持ってるその木刀も、大切にしていればいざという時にも応えてくれるかもな」

「はい……では、引き続きご指導をお願いします!」


 こうしてぼくは気持ちも改めて稽古に取り組んだ。次の日もまた次の日も、忙しい時間の中で稽古に使える時間を見つけてはぼくを鍛えてくれたし、エイリークさんが出かけている間も、グレィスちゃんが稽古に付き合ってくれた。


「グレィスちゃんも、エイリークさんから沢山剣術を教わった感じ?」

「将来立派な冒険家になるためだって、毎日叩き込まれたよっ!でもおかげで体力付いたんだっ!」

「強い親に恵まれて、強く育ったんだね」


 こうして、あの剣術大会から一週間が経過した。


   * * * * * * *


 アルブルタウンの広場には、ぼくとムソーン君の決闘を見届けようと沢山の人達が集まっていた。大会の次の日に集落のバード族がみんなにビラを配って告知したんだとか。


「思ったより、沢山集まっているね」

「わたしまだっ、この町で暮らしたいからっ……お願いだからっ、必ず勝ってよねっ!」

「分かってる」


 空を見ると、二人の鳥人がこちらに向かって飛んで来るのが見えた。大人の鳥人と、少年の鳥人がやって来た。


バサアバサアッバサアバサアッ!!!!!!


 ヴェーチェルさんと、息子のムソーン君である。ムソーン君はぼくの前に来て言った。


「逃げずに来たな、我が宿敵ポースよ」

「ぼくも、今日までやれるだけの事はした」


 すると、ムソーン君は頭の羽飾りをなびかせて、周りの人達に向かってこう言った。


「本日お集まりの紳士淑女の皆様、初めてお目にかかります。我が名はムソーン、バード族一の剣士なり!!!」


 名乗りを上げるムソーン君。観客達も注目している。


「ぼくはポース……グレィスちゃんを……守る者だ!!!」


 ぼくも負けじとこう言った。


「やったれー!」

「どちらがグレィスに相応しいかここで決めてやれー!」

「どっちもがんばれーーー!!!」


 どうやら、町の人の中には、ぼくを応援する人もいれば、ムソーン君を応援する人も少なからずいるみたいだけど、ぼくにはグレィスちゃんやグラスさん、他にも多くの理解者や協力者がいる……!両親は今は仕事とか忙しくて見に来てないんたけど、頑張る!


「それでは、この競技用の剣を受け取りたまえ」


 ヴェーチェルさんがぼくとムソーン君に一本ずつ剣を渡した。ムソーン君は赤い剣を受け取り、ぼくは青い剣を受け取った。


「試合の時間は無制限、この広場の敷地内でなら、いかなる能力も自由に使って良い。どちらかの剣が当たり、花火を上げた方を勝者とする」


 ヴェーチェルがルールを説明すると、続けてこの戦いに勝利したら欲しいものを聞いてくる。


「では両者、この戦いに勝ったら欲しいものは何か」

「そこにいるグレィス殿を貰い、共に仲睦まじく暮らしたい!」

「グレィスちゃんのお友達として、また一緒に過ごしたい!」


 ぼく達を見つめるグレィスちゃんの表情も、ハラハラしているみたいだ。


「これがいわゆる、わたしのために争わないでー!って感じの展開だったりするっ!?」


 そこにグラスさんが来て言った。


「審判は、わたしが務めさせていただきますう……では両者構えて……」


『はじめえ!!!』


ヒュン!ヒュン!キン!キィン!!!


 交わるぼくとムソーン君の剣。エイリークさんの指導のおかげで、相手の剣の軌道を良く見る事が出来る。上手く攻撃を捌いて、一瞬の隙を突こうとするけど……!


「この勝負、貰い受ける!!!」


バサアッ!!!


 ムソーン君が飛んだ。相手はバード族だ、それぐらいはするだろう。でもぼくだって……!


「ぼくも少しは、飛べる!!!」


バサアッ!!!


 ぼくも飛んだ。けど長くはもたない。早めに終わらせなくちゃ……!


キーン!キーン!!!シュキィーーーン!!!


 空中でも剣戟をぶつけ合うぼくとムソーン君。観客達も固唾をのんで見守っている。


「どっちも、かっこいいけどっ……!」


 それはグレィスちゃんも同じだ。エイリークさんの娘を守るためにも、ぼくが頑張らなきゃ……でも、ぼくの体力にもそろそろ限界が近付き……!


「あ……そろそろ羽を動かすの疲れてきた……!」

「動きが鈍ったな!そこだあああ!!!」


 ムソーン君の剣がぼく目掛けて迫って来る……!ここで避けなきゃ……グレィスちゃんが……!!!


『い や だ っ ! ! !』


 ぼくはムソーン君の攻撃を振り払おうとした。


シュヴォワアアアアアッ!!!!!!


 激しい閃光が辺りを包み、観客達は目を覆った。


「うおっまぶしっ!」

「何だこれは!」

「何が起こった!?」


 …………。


 気がつくと、ぼくは地面に立ってて、目の前には、頭の羽飾りだけが半分日食に呑まれたように抉られて戦慄して、壁に背を付けているムソーン君がいた。


「……そ、その技は何なのだ……!?」


 見るからに戦意を喪失している様子のムソーン君。今この剣で彼を突いて花火を出せば、グレィスちゃんは守れる……けど……!!!


「うう……うああああああああ!!!」



ズクッ!バァーーーーン!!!



「…………!!!」


 ぼくの剣から、青い花火が噴き出した。けど、剣を突いたのはムソーン君の身体ではなく、すぐ後ろの壁だった……。


「何故、トドメを刺さない……?」

「ぼく……こんなチカラで勝ったって、嬉しくない……!」


「ということはあ、この勝負はあ……」


 グラスさんは、ぼくとムソーン君の双方の意見を聞いた。そして、グラスさんから下されたジャッジは……。


「この勝負、引き分けとしますう!!!」


「おおおおお……」


パチパチパチパチパチパチ……


 観客達も、おごそかに声をあげて拍手した。


・・・


 決闘は引き分けになったと言う事で、グレィスちゃんの処遇は現状維持となった。


「ポース君っ……そのチカラはっ……」

「グレィスちゃん、今はそっとしてあげて下さいねえ……」


 お互い不本意な結果となった決闘の後、ムソーン君がぼくに言った。


「い、いいか……我はまだ負けを認めた訳では無い!その技に対するすべを知らないだけだ!」

「それじゃあ、また勝負するって事?」

「我はまた故郷で技を磨いて、来たるべき時に再び勝負を挑むとしよう。次こそはグレィス殿を我が手に!」


 そう言って、ムソーン君はヴェーチェルさんの所に戻っていった。


「父上……すみません……あの時貰った髪飾りがこうなってしまって……」

「髪飾りなら、後で新しいものをあげよう。さあムソーンよ、帰ったら母の特製豆料理が待っているぞ」


バサアバサアッバサアバサアッ!!!!!!


 親子二人は、バード族の集落へと帰っていった。


   * * * * * * *


 ぼくも家に帰り、両親と一緒に夕飯を食べながら、今日の事を話した。


「バード族の剣士と対決したんだってな、どうだった?」

「え、ええっと、グレィスちゃんは何とか守れたよ……」

「おかわりもいっぱいあるからどんどん食べて」


 父のステルクと母のリュミエールとも楽しく過ごしたつもりでも、夜、ベッドの上で一人こう思うのだった……。


「もしあのチカラの打ち所が悪かったら……ぼくはムソーン君を……いやっ!このチカラ、人を傷付けるために使いたくない……!」


 第7話へ続く。

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