第19話 ハルマからの質問

 家に帰ってから、急に落ち込んだ。タツオミに悪いことをした。逆の立場でよくよく考えたら、だいぶ異常事態だ。好きな人には恋人がいて、二人とも友達。尽くしたって、キスしかできない。


 ハルマにも……絶対言えない。俺がタツオミを好きになってしまったら、むしろ堂々と報告するだろう。が、今回はキスが勉強会のお礼、みたいなかんじだ。巡り巡って成績が上がればハルマのためにはなる。それにタツオミとハルマだって、友達なんだ。無駄に関係を壊したくない。


 はあ……。二人に申し訳ない。でも、タツオミの協力がなければ、たぶん俺は合格できない。それに結局、俺は二人のことがどっちも好きなのだ。優柔不断が良くないのはわかっているけど……。



 タツオミが予備校の日で勉強会がないときは相変わらずハルマの家で勉強をする。


「リョウスケ……なんか元気なくない?」


 ハルマが言う。


「あ、うん。最近、勉強ばっかりしてるからかな」


 それは本当だ。


「まだ、2年の春だし、あまりこん詰めるともたないよ……って、タツオミが言ってた」


「それもそうだよな。特に俺みたいな奴は、燃え尽きるかも」


 シャーペンを放り投げるように置いて、仰向けに寝転がる。ちょっと息抜きも必要だと思った。


「リョウスケ……」


 ハルマが寄ってきて、横に寝そべった。


「最近、二人きりになることないから、寂しいなと思って……」


「あ、うん。そうだね」


 罪悪感からちょっとばかりハルマと距離を置いていたところがあった。ハルマがゆっくりと上に来て、キスをしてきた。チュッチュッ……と、部屋に懐かしい音が響く。


「……欲求不満なの?」


 ハルマに聞く。


「……そうだけど……」


 競ってたわけじゃないが、ハルマの方が先に我慢できなくなるのは意外だった。ただ、俺の方が気持ちが落ち着かない。


 ハルマを抱き寄せる。すごいフィット感。こうしてくっついていると安心感からか眠気までもよおしてくる。


「……タツオミと、何かあったの?」


 急な登場人物にギクッとする。安心感は即座に消滅した。


「なんで? どういう意味?」


 ハルマの大きな目が俺を見る。


「タツオミは、もしかしたらリョウスケのことが好きなんじゃないか、って……」


「まさか、わざわざ俺なんか、好きになる理由がないじゃん」


 白々しく言ってしまった。


「タツオミがリョウスケに笑いかける時って、なんか違うんだよね……。本当に、優しい顔になるんだ。教えてるときのトーンも違うし」


「出来が悪い子ほど、かわいいってやつじゃないの? 親心的な」


「……リョウスケはさ、タツオミから告白されたらどうするの?」


 困る。困ってるよ、今まさに。


「俺にはハルマがいるから、断るよ。」


「断っておいて、勉強会だけしよう……っては、ならないと思うんだ」


 それな。


「タツオミは、あんな性格だから、二番目でいいとか言いそうだし」


 ほんそれ。ハルマはエスパーなの?


「リョウスケだって、それなら、とか、言いそう」


 読まれてる。冷や汗を感じながら、表情に出ないように全力を尽くす。


「……そうなっちゃったら、ハルマはどうする……?」


 もう俺とタツオミは、ある意味契約を交わした後だ。残るはハルマの受け取り方次第。


「俺は……リョウスケに、告白するのにすごく勇気がいったから、タツオミだって、すごく悩んだと思うんだ。そういう意味では仲間だよ。だから……本当はリョウスケを独り占めしたいけど……タツオミとリョウスケが少しくらい一緒にいるのも……いいかなとは思っちゃう……」


「ハルマ……お前、本当に優しいな……」


「同類の憐れみだよ」


 ハルマは儚く笑った。


 俺はハルマにキスをする。舌でなぞり、舌を絡め、ハルマの唇はやわらかくふるえた。


「……こういうことするのは、ハルマとだけだから……」


 息を切らせて言うと、ハルマも乱れた呼吸のまま小さくうなずいた。

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