アフタースクール

第18話 秘密の約束

　タツオミに頭を押さえられ、ぼやっとしているうちに俺の唇はタツオミに奪われていた。

「ちょ！　やめろよ！」

　と言ったつもりがさらに噛みつかれるようなキスをされジタバタする。もがいているうちに、結局タツオミに手を掴まれて押し倒されていた。タツオミに見下ろされるが、その表情は悲しそうだった。

「……この勉強会に下心が無いわけじゃなかった。あの時も言ったじゃないか。一緒にいたいって……」

「……ごめん……その……タツオミの……気持ちに甘えてて……」

　タツオミの気持ちは気の迷いかと思い、タツオミとの関係を曖昧にしていた自覚はあった。

「タツオミの好意を利用したつもりはないんだ。俺は本当にお前のことを尊敬してるんだよ……」

　気持ちを弄んだわけじゃない。それだけはわかってほしかった。

「……俺だって……本当にリョウスケの助けになりたいとは思っているんだよ……」

　タツオミはため息をつくと、俺の上からどいて横に座り直した。俺はゆっくり起き上がった。

「なあ、リョウスケ……。俺は別に二人の仲を壊したいわけじゃないんだ。二人とも大切な友達だから……。この勉強会も辞めたくない、リョウスケのことも最後まで応援したいよ。受かってハルマと幸せになってほしい。」

　タツオミは頭をかきながら言った。

「だけど、俺も俺でリョウスケのことが好きなんだ。最初は頼られる喜びかと思ってたけど、それだけじゃなくて……。二人で遊びにも行きたいし、やっぱり……リョウスケにも、俺のことを好きだと思ってほしいんだ……」

　タツオミのことはたしかに好きだし、今のままじゃダメなんだろうか……。いやまあ、タツオミはキスしたいくらい好きで、俺はタツオミとキスしたいかっていうと、それはないから、うん、まあ、好きの中身が違う……よね？　うん。

「なあ、リョウスケ。たまにでいいから俺にも付き合ってくれないかな……？」

　タツオミの切なそうな目が向けられた。

「たまに？　うん、いいよ、たまに、なら……。えっと……俺も、勉強会は好きだから……タツオミが続けたいと思ってくれるのは嬉しいよ。ハルマとのことも考えてくれて……ありがとう。ただ、その、たまに付き合うってのは……何をするの……？」

「二人で出かけるのは？」

「それは友達ならそもそも大丈夫……だよね？わざわざハルマに気を遣わなくても。」

「じゃあキスは？」

　そう言われて、思わず自分の口元を隠してしまった。

「だ、だめじゃないかな！　ハルマ的に！」

「……リョウスケ的にはどうなんだよ。一旦ハルマのことは置いといて」

　タツオミの視線が急に鋭くなる。

「いや、それは、その、ハルマとは付き合いが長いからなんか勢いがあったんだけど、そんな、男とキスするかしないかなんて、考えたことないからさ！」

　と、言い終わる間も無く、タツオミに押し倒され何度も唇を吸われる。

「うがっ！　ちょ！　だめぇっ」

　本気で抵抗すれば何とかはなるかもしれない。でも、今までのタツオミから受けた恩を考えたら、タツオミを殴ったり突き放すことは出来なかった。

　俺が抵抗をやめると、タツオミをそれを察して、今度はゆっくり唇をはんできた。

　……が、なんだかんだ言ってもタツオミはキス初心者。キス(対男)だけなら、ハルマとのキス量をこなす俺の方がスキルが高いと思った。

「わっ！」

　反撃に転じた俺の舌使いに、タツオミは怯んで顔を離した。

「まあ、そういうわけで、ハルマと付き合ってるだけのスキルはあるわけで、いくらタツオミでもね、そこは俺には敵わないと思うよ」

　何を言ってるんだ俺は。

「無駄にカッコいいな」

　タツオミは笑い転げ始めた。

「今日のこと、ハルマには絶対言うなよ。遊びにはいけるけど、キスは、ダメだよ、うん、ダメ」

「わかったよ。でも諦めるわけじゃないから。ハルマで鍛えたキス力を確かめるまでは」

　タツオミは今までで一番悪い顔で笑った。