あはれとも いふべき人は 思ほえで
そういえば、今朝はまた、あの
昨日と変わらないような時間を過ごすこと。
その意識に危機感を覚えなくもないが、平穏であればそれでどうでもよいと思っていることも、また真実であった。
望んだ今日が今ここにあった。それ以上を積極的に望む気持ちはなかった。
国語の先生が、教壇に立って、和歌を詠んでいる。
あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
一見、恋愛の儚さを詠んでいるようですが――心を動かす人、そう、刺激や感動を与える存在がいないことで、自分の存在が、
その講釈に、「なるほど」と、珍しく興味を引かれる。
黒板に書かれた、その和歌の現代訳を、つらつらとノートに書き取る。
私のことを哀れだと言ってくれそうな人は、他には誰も思い浮かばないままに、きっと私は
…………どうしてか、心を
恋愛の儚さとか、そんな情には、なにも心は動かなかったというのに。どうしてか、その現代訳を、見た途端に――。
窓の外へ視線を向けた。
今朝の冷えた空気からして考え難いことに、入道雲が、空向こうに見えた。
あの中は雷雨の渦巻く危険域だという。
けれど、どうしてだろう。遠目に見る分には、その景色に憧れを抱き、そこへ近づきたいようにも思えた。
あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
――とても、印象的な
先生の声を、あの入道雲より遠くに、聞いていた。
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