蟹型荒魂械、ウンスイ
「……ここが、今日の任務予定地か」
黒いスーツに身を包み、亀有の小学校周りに俺はやってきた。
ここは昼間なら小学生が遊ぶ公園で、ベンチやら滑り台やらが設置されてる。
相変わらず外は真っ暗で、おまけに今回は同伴する政府のスタッフもいない。
なんでも今回の任務はかなり広範囲をカバーしないといけないらしくて、しかも俺がいないところの方が荒魂械が多く目撃されてるとか。
で、そっちが大事だからってわけで、人員が多く割かれてるわけだ。
「範囲が広いうえに、目撃されてる
車で連れてきてくれた父さんが「この辺りは目撃情報がとても少なくて、おまけみたいなもんだ」と言っていたとはいえ、どうにもしっくりこない。
もしも俺じゃない、しかも同年代の別の神祓師が任されたなら、不安で仕方ないはず。
ぶっちゃけ、この過酷さが
「なに、ビビってるの? 晴天院家の男はだらしないわね!」
もっとも、そんな心配は、俺の隣にいる彩真音にとっては無縁だ。
彼女は黒い上着とスカートを纏ってはいるけども、ぶっちゃけ不釣り合いというか、ちびっこが背伸びして黒装束を着ているようにしかめない。
ま、そりゃ俺も同じか――なんせまだ、八歳のガキなんだから。
「ビビってはねえけど……」
「ま、じきにあたしにそんな言葉も言えなくなるわよ。この『
ふふーん、と彩真音が胸を張る。
「あと、今日はスパッツも履いてきたわ! アンタみたいなヘンタイが、じろじろあたしのパンツを見ないようにね!」
確かにひらひらと舞うスカートの内側は、これまた真っ黒なスパッツだ。
でも、俺にとってはそれよりも気になることがある。
「……分かった、分かったからとりあえず、霊装は解除しとけ」
彩真音がさっきからずっと、霊装を発現させ続けていることだ。
「はぁ? いつ敵が来るかも分からないのに、素手でいろってわけ?」
「その霊力の出し方じゃ、戦いの途中でバテるぞ」
めらめらと燃える三つの勾玉を見つめながら、俺は話を続ける。
「霊装に纏わせる霊力も、勾玉の炎も、維持の仕方を修行しなおした方がいい。少なくとも、敵も見えてないのに霊力を出しすぎだ」
ここまで説明して、やっと彩真音は霊装を解除した。
「……知ってるわよ。知ってるけど、わざとあたしの力を見せつけてやったの!」
「はいはい」
「スルーしてんじゃないわよ、晴天院家のくせに……ッ!」
彩真音が突っかかろうとするよりも先に、俺は彼女を手のひらで制した。
喧嘩に乗ってやるつもりもなかったし、何より今はそれどころじゃない。
「……来たな」
俺の視線の先にある、ちっちゃな小学校。
その柵を乗り越えて――怪物が、姿を現したんだ。
『グギュ、グギュギュ……』
俺達の前に出てきたのは、巨大な鋏を持つ、人間の子供くらいの大きさの蟹。
もちろん全身が機械のような装甲で覆われている――立派な荒魂械だ。
「ウンスイ甲式……蟹の姿をした荒魂械か」
「相手が荒魂械ってことは、遠慮なくぶっ飛ばしてもいいってことよねっ!」
「あ、おい、無茶すんなよ!」
ぐっと身構える俺に対して、彩真音は何のためらいもなく突進した。
そしてまだ鋏を振り回して威嚇しているウンスイめがけて、ハンマーを振り下ろす。
「おらあああああッ!」
勾玉を撃ち込むまでもなく、蟹の荒魂械の装甲が粉々に粉砕された。
動きを止めた荒魂械の亡骸を蹴飛ばされると、敵も当然、攻撃的な反応を見せる。
『グギィイイイイ!』
『ガアァ、ギャギュエ!』
ガチャガチャと鋏を振り回す怪物が襲ってくれば、さすがに応戦せざるを得ない。
本当なら通信機で応援のひとつでも求めたいけど、
「しょうがねえな……『布都御魂』!」
鬼の面をかぶり、俺は一番近くにいたウンスイの
抵抗できなくなった荒魂械の甲羅を蹴飛ばし、中身を露にしてやれば、後はナンパ掴拳を叩き込んで、スクラップの出来上がりだ。
ただし、これでもかなり周囲を警戒しながら戦ってる。
なんせ彩真音が、後先考えずに敵の群れに突っ込んでるんだからさ。
「まだ見習いなのに、前に出すぎると危険だ! そっちは勾玉を撃ち込んで、後方からサポートしてくれればいい!」
「同い年のくせに、あたしに命令してんじゃないわよ!」
「歳は関係ないだろ……この、邪魔だっ!」
どうにか彩真音をフォローしたいのに、ウンスイの数が多く、うまく近づけない。
それでも数が多いだけだから、てきとうに蹴散らせるのはありがたい。
「はあああッ!」
心配する俺をよそに、燃える勾玉を撃ち込み、彩真音が荒魂械を撃破する。
いろいろと言ってはいたが、なるほど、神祓師としての実力は確からしい。
それがあいつに、自由に戦わせてやる理由にはならないけども。
「『
迫ってきたウンスイの甲羅に拳を押し当て、霊力を一気に放出する。
爆発的に放たれた霊力は、すぐ後ろにいた荒魂械もまとめて粉々に吹っ飛ばす。
『『ギャギャアアアア!』』
機械音声のような悲鳴が何度か聞こえたのち、小学校の周りはすぐに静かになった。
俺と彩真音が、十は下らないウンスイ甲式をすべて撃破したんだ。
もう、ガシャガシャという蟹の奇怪な足音も聞こえないし、この地域の荒魂械はあらかた始末したと思っていいかもしれない。
「……思いのほか、あっさり倒せたな」
「当然よ! このあたし、氷雨彩真音と『八尺瓊勾玉』がいるんだから!」
彩真音は霊装を消える炎のように解除して、俺の前に躍り出て言った。
「この調子で荒魂械を倒しまくって、氷雨家が晴天院家より優れてるって証明してやるわ! そしてパパとママにも褒めてもらって、あたしは氷雨家の神童として……」
相変わらず出てくるのは、自分や氷雨家を褒め称える言葉と、晴天院家への
そんな言葉を吐き散らかすのが当たり前であるかのようにふるまう彩真音を見ていて、俺は、問いかけるなら今だと思った。
だから鬼の面を外し、俺は自慢げな彩真音に向かって、声をかけた。
「……なあ、それって
俺自身の素直な疑問を、彩真音にぶつけた。
彼女の高慢ちきな顔つきが、わずかに崩れたような気がした。
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